ニューロモルフィック半導体(Neuromorphic Chip)とは、人間の脳神経回路(ニューロン・シナプス)の構造と動作原理をハードウェアとして模倣した革新的な集積回路であり、従来のフォン・ノイマン型コンピューターアーキテクチャとは根本的に異なる情報処理パラダイムを実現する。スパイキングニューラルネットワーク(SNN)に基づいてイベント駆動型の処理を行い、超低消費電力でパターン認識・時系列処理・センサー融合を実現することを目指す。
ニューロモルフィックチップの代表的な実装として、IntelのLoihi 2(128コア、100万ニューロン相当)、IBMのTrueNorth(4096コア、100万ニューロン)、スタンフォード大学のNeurogrid、ハイデルベルク大学のBrainScaleS等がある。これらは従来のGPUと比べてAI推論処理で10〜1000倍の電力効率を示す可能性があると報告されているが、現状はまだ研究段階のアプリケーションが多い。
シナプス素子としての抵抗変化メモリ(ReRAM)や相変化メモリ(PCM)の活用がニューロモルフィックハードウェアの重要な研究テーマである。これらのアナログメモリ素子は複数の抵抗値状態(多値記憶)を保持できるため、シナプス結合重みをアナログ的に表現することが可能であり、ニューラルネットワークの重みをメモリに物理的に格納してインサイチュ学習を行う「アナログAI」の実現が期待される。
ニューロモルフィックとGPUベースのDeep Learningアーキテクチャとの違いとして、GPUはバッチ処理・行列演算に特化した高スループット計算に優れる一方、ニューロモルフィックはイベント駆動・スパース計算に特化してエッジデバイスでの超低電力常時推論に適している。両者は補完的な関係にあり、エッジAIデバイスでの組み合わせ利用が研究されている。
2025年以降のニューロモルフィック市場は、スマートセンサー・ウェアラブル・ロボティクス向けのエッジAI推論、および脳型コンピューティング研究向けの高性能システムの2セグメントで成長が見込まれる。Intelはニューロモルフィックを長期ロードマップの柱として位置づけ、SynopsysやCadenceはニューロモルフィック設計向けのEDAツール対応を進めている。