閾値電圧(Vth:Threshold Voltage、しきい値電圧)は、MOSFET(電界効果トランジスタ)をオンにするために必要な最小のゲート電圧です。ゲート電圧がVthを超えると、チャネル領域に反転層(電流の通り道)が形成され、ソースからドレインへ電流が流れ始めます。Vthはトランジスタのスイッチング動作・消費電力・速度を決定づける最も基本的なパラメータの一つです。
Vthが低いとトランジスタは小さなゲート電圧でオンでき高速動作に有利ですが、オフ時の漏れ電流(リーク)が増えて待機電力が大きくなります。逆にVthが高いとリークは減りますが動作が遅くなります。このトレードオフを管理するため、先端ロジックでは1チップ内に複数のVth(マルチVt:高速用のLVT、低リーク用のHVTなど)を作り分け、回路ブロックごとに最適化します。
Vthは、ゲート絶縁膜の厚さ・材料(High-k)、ゲート電極の仕事関数(メタルゲート)、チャネルのドーピング濃度などで設計・調整されます。HKMG(High-k/メタルゲート)技術では、仕事関数メタルの選択によってnMOS・pMOSそれぞれのVthを制御します。微細化が進むほど、製造ばらつきによるVth変動(ランダムばらつき)を抑えることが歩留まりの鍵になります。
短チャネル効果(SCE)が顕著になると、ドレイン電圧によってVthが低下するDIBLなどの現象が生じ、オフ電流が制御困難になります。これがFinFETやGAA(ゲートオールアラウンド)といった立体構造への移行を促した根本的な理由であり、Vthの安定制御は微細化時代のトランジスタ設計の中心課題です。