結論:SEM(走査型電子顕微鏡)とTEM(透過型電子顕微鏡)の違いは?
最大の違いは「電子を試料の表面から出てくる信号で見るか、試料を透過させて見るか」です。SEMは細く絞った電子線で試料表面を走査し、表面から出てくる二次電子などを検出するので、厚い試料やウェハのままでも表面形状を観察でき、分解能はおおむね1nm前後です。TEMは厚さ100nm以下に薄片化した試料に高エネルギーの電子を透過させるため、原子の並びまで見える0.1nm以下の分解能が得られますが、試料作製に時間がかかり、観察した試料は製品に戻せません。半導体では、ラインでの寸法計測や欠陥観察はSEM、ゲート絶縁膜の厚さや界面を原子レベルで確かめるプロセス開発・故障解析はTEMという役割分担です。
比較表
| 観点 | SEM(走査型電子顕微鏡) | TEM(透過型電子顕微鏡) |
|---|---|---|
| 観察の原理 | 電子線で表面を走査し、表面から出る二次電子・反射電子を検出して像にする | 薄片試料に電子線を透過させ、透過電子や回折電子を結像する |
| 分かる情報 | 表面の凹凸・形状、断面形状、組成によるコントラスト | 内部構造、結晶の格子像、界面、結晶欠陥 |
| 分解能の目安 | 1nm前後(装置と観察条件による) | 0.1nm以下(収差補正付きではさらに高い) |
| 加速電圧 | 数百V〜30kV程度 | 80〜300kV程度 |
| 試料の厚さ | 制約なし。ウェハのままでも観察できる | 電子が透過できる100nm以下の薄片が必要 |
| 試料作製 | 表面観察なら不要なことが多い。断面は割断やFIB加工 | FIBなどによる薄片化が必須で、数時間単位の作業 |
| 破壊・非破壊 | 低加速のインライン装置はウェハを工程に戻せる | 破壊的。観察した箇所は製品にならない |
| 観察範囲 | 広い視野から高倍率まで連続して探せる | 薄片化した狭い領域に限られる |
| 半導体での主な用途 | CD-SEMによる線幅計測、レビューSEMによる欠陥観察、断面観察 | ゲートスタックの膜厚・界面評価、GAA構造の確認、故障解析 |
| 組み合わせる分析 | EDX(エネルギー分散型X線分析) | STEM、EDX、EELS(電子エネルギー損失分光) |
表面から出る信号か、透過した電子か
SEMでは、数nmまで細く絞った電子線を試料表面でラスター状に走査します。電子が当たった点からは二次電子や反射電子が飛び出し、その量を点ごとに記録して画像を組み立てます。二次電子は表面のごく浅い部分からしか出てこないため、得られる像は表面の凹凸を強く反映したものになります。TEMでは、試料を電子が突き抜けられるほど薄くしておき、高エネルギーの電子線を透過させます。試料内部の原子で散乱・回折された電子をレンズで結像するので、表面ではなく厚さ方向に投影された内部構造が見え、条件がそろえば原子の列そのものが格子像として写ります。
製造ラインで使えるのはSEM
量産ラインで日常的に使われる電子顕微鏡はSEM系です。CD-SEMはレジストやエッチング後のパターン線幅を、ウェハを割らずに上から測ります。電子線によるダメージやチャージアップを避けるため、加速電圧を1kV前後以下まで下げて観察するのが特徴です。レビューSEMは、光学式などの欠陥検査装置が見つけた欠陥の座標へ移動し、その形状を拡大して分類します。どちらも測定後のウェハはそのまま工程に戻せます。TEMは試料を薄片化する時点でウェハの一部を切り出すため、ラインの工程管理に組み込むことはできません。
TEMが必要になる場面
ゲート絶縁膜やGAAのナノシートが数nmの厚さになると、SEMの分解能では膜の境界がぼやけ、正確な厚さや界面の状態を判断できません。High-k膜と界面層の厚さ、メタルゲートの埋め込み具合、エピタキシャル層の結晶欠陥といった情報は、原子レベルの分解能を持つTEMでなければ確かめられません。電子線を細く絞って走査するSTEMモードでEDXやEELSを組み合わせれば、構造と元素分布を同じ場所で重ねて見られます。新しい工程の条件出しや、電気特性の不良原因を物理的に特定する故障解析で、TEMは最終的な確認手段になっています。
ボトルネックは試料作製
TEMの実務上の制約は、観察そのものより試料作製にあります。狙ったトランジスタを含む領域をFIB(集束イオンビーム)で削り出し、厚さ数十nmまで薄くするには、熟練した作業で数時間かかります。薄片化の途中でイオンビームによるダメージ層ができると、それ自体が観察結果を歪めます。そのため、まずSEMで広い範囲を観察して異常箇所を絞り込み、狙いを定めてTEM試料を作る、という順番で両者を組み合わせるのが一般的です。FIBとSEMを1台にまとめたFIB-SEMは、この絞り込みと試料作製を同じ装置内で行うための装置です。
まとめ(どちらを選ぶか)
ウェハを壊さずに形状や寸法を大量に測りたい、欠陥を探して分類したいならSEMです。膜厚や界面、結晶構造を原子レベルで確かめたい、不良の物理的な原因を突き止めたいならTEMです。判断の軸は分解能だけでなく、「試料を壊してよいか」「どれだけ時間をかけられるか」にあります。