HKMGとポリシリコンゲートの違い

トランジスタのゲートは、薄い絶縁膜を挟んでチャネルに電界をかけ、電流のオン・オフを切り替える部分です。この小さな積層構造の材料は、微細化の歴史の中で一度、根本から置き換えられました。それがポリシリコンゲートからHKMGへの転換です。ここでは両者の構造を比べ、なぜ置き換えが必要になったのか、HKMGで何が難しくなったのかを整理します。

最終更新: 2026-09-14

結論:HKMG(High-k/Metal Gate)ポリシリコンゲート(SiO₂/SiON+ポリシリコン)の違いは?

最大の違いは「ゲート絶縁膜と電極の材料」です。ポリシリコンゲートは、SiO₂(またはSiON)の絶縁膜の上に不純物をドープしたポリシリコンの電極を載せた構造で、数十年にわたりCMOSの標準でした。しかし絶縁膜を1nm台まで薄くすると、電子が絶縁膜を通り抜けるトンネルリークが急増し、それ以上の微細化が難しくなりました。HKMGは、誘電率の高いHfO₂系のHigh-k膜を使って物理的に厚い膜のまま同じ電気的な厚さを保ち、電極をTiNなどの金属に替えてポリシリコン特有の空乏化とHigh-k膜との相性の悪さを解消した構造です。2007年にIntelが45nm世代で量産を始め、現在の先端ロジックはすべてHKMGです。一方、28nm以上の成熟ノードではコストの安いポリシリコンゲートも使われ続けています。

比較表

HKMG(High-k/Metal Gate)ポリシリコンゲート(SiO₂/SiON+ポリシリコン)
HKMG(High-k/Metal Gate)ポリシリコンゲート(SiO₂/SiON+ポリシリコン)観点別比較
観点HKMG(High-k/Metal Gate)ポリシリコンゲート(SiO₂/SiON+ポリシリコン)
ゲート絶縁膜HfO₂系のHigh-k膜(シリコンとの界面にごく薄いSiO₂層)SiO₂、または窒素を添加したSiON
絶縁膜の比誘電率約20〜25(HfO₂)約3.9(SiO₂)
ゲート電極TiN・TaN・TiAlなどの金属積層と、WやAlなどの埋め込み金属リンやボロンを高濃度にドープしたポリシリコン
ゲートリーク電流物理膜厚を厚くできるため大幅に小さい膜厚1nm台ではトンネルリークが急増する
ゲート電極の空乏化金属なので起きない起きる(実効的な絶縁膜厚が厚くなる)
しきい値電圧の調整仕事関数の異なる金属をNMOS・PMOSで使い分けるポリシリコンのドーピング(n型・p型)とチャネルドーピングで調整
製法Gate-Last(リプレースメントメタルゲート)が主流ゲート電極を先に形成する従来の工程順
主な成膜手法ALD(High-k膜・仕事関数金属)熱酸化・窒化、CVD(ポリシリコン)
工程数・コストダミーゲートの除去や金属の埋め込みが加わり増える少なく安価
適用ノード45nm/32nm以降の高性能ロジック、FinFET・GAAのすべて28nm以上の成熟ノード、コスト重視の製品

ポリシリコンゲートが行き詰まった理由

トランジスタを微細化すると、ゲートがチャネルを制御する力を保つためにゲート絶縁膜も薄くする必要があります。SiO₂系の絶縁膜は90nm〜65nm世代で1.2nm程度、原子にして数層分の厚さまで薄くなりました。この厚さになると、電子が量子力学的なトンネル効果で絶縁膜を通り抜け、ゲートリーク電流が流れます。膜をわずかに薄くするだけでリークは数倍に増えるため、これ以上の薄膜化は消費電力と発熱の点で現実的ではなくなりました。加えて、ポリシリコン電極は絶縁膜との界面側がわずかに空乏化し、実効的な絶縁膜厚を厚くしてしまうという問題も抱えていました。

High-k膜が解決したこと

ゲートがチャネルを制御する強さは、絶縁膜の厚さそのものではなく、誘電率を考慮した電気的な厚さで決まります。これをSiO₂に換算して表したのがEOT(等価酸化膜厚)です。HfO₂の比誘電率はSiO₂の5〜6倍あるため、同じEOTを5〜6倍の物理膜厚で実現できます。物理的に厚い膜なら電子はトンネルしにくくなり、ゲートの制御性を保ったままリーク電流を大幅に抑えられます。ただしHigh-k膜はシリコンとの界面の品質がSiO₂に劣るため、実際にはシリコンとの間にごく薄いSiO₂の界面層を残して積層します。

なぜ電極も金属に替える必要があったのか

High-k膜の上にそのままポリシリコン電極を載せると、界面の反応によってしきい値電圧が狙った値に合わなくなるフェルミレベルピニングが起き、High-k膜中の格子振動(フォノン)によってチャネルの移動度も低下しました。金属電極はこれらの問題を抑え、さらにポリシリコンの空乏化もなくします。その代わり、しきい値電圧をポリシリコンのドーピングで調整することはできなくなり、NMOSとPMOSで仕事関数の異なる金属を使い分ける必要が生じました。High-kとメタルゲートが必ずセットで語られるのは、どちらか一方だけでは問題を解決できないためです。

Gate-FirstとGate-Last

HKMGの製法には、従来と同じ順序でHigh-k膜とメタルゲートを先に作るGate-Firstと、仮のポリシリコンゲート(ダミーゲート)でソース・ドレインまで作ってから、ダミーを抜いて金属を埋め込むGate-Last(リプレースメントメタルゲート)の2つがあります。Gate-Firstは工程が単純ですが、ソース・ドレインの活性化に必要な高温の熱処理で金属の仕事関数が変わりやすいという弱点があります。Gate-Lastは工程が複雑になる代わりに、金属が高温を経験しないためしきい値電圧を制御しやすく、FinFETやGAAを含む現在の先端ロジックはこの方式で作られています。Gate-Lastでも、ポリシリコンはダミーゲートとして使われ続けている点は興味深いところです。

まとめ(どちらを選ぶか)

性能と消費電力が最優先の先端ロジックでは、HKMGが前提です。FinFETやGAAはHKMGなしには成立しません。一方、28nm以上の成熟ノードで、リーク電流の要求がそれほど厳しくなく、コストを重視するマイコンやアナログ、ディスプレイドライバなどでは、工程が少なく安価なポリシリコンゲートが今も合理的な選択です。TSMCの28nm世代にポリシリコンゲート版とHKMG版の両方が用意されているのは、この使い分けを反映しています。

関連ページ

HKMG(High-k/Metal Gate)(用語)
ポリシリコン(多結晶シリコン)(用語)
High-k誘電体(用語)
RMG(リプレースメントメタルゲート)(用語)
EOT(等価酸化膜厚)(用語)
フェルミレベルピニング(用語)
ゲート酸化膜(用語)
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よくある質問

HKMGを最初に量産したのはどこですか?
Intelが2007年に45nm世代のプロセッサで量産を始めたのが最初です。その後、TSMCやSamsung、GlobalFoundriesなども32nm〜28nm世代でHKMGを導入しました。
High-k膜にはどんな材料が使われますか?
主にハフニウム酸化物(HfO₂)や、それにシリコンや窒素を加えたハフニウム系の材料が使われます。原子層単位の精度で膜厚を制御できるALD(原子層堆積)で成膜するのが一般的です。
ポリシリコンゲートはもう使われていないのですか?
成熟ノードでは広く使われています。28nm以上のマイコン、アナログ、パワーIC、ディスプレイドライバなどでは、ポリシリコンゲートがコスト面で有利です。また先端ロジックでも、Gate-Last方式のダミーゲートとしてポリシリコンが使われています。
HKMGはメモリにも使われていますか?
DRAMでは、メモリセルを駆動する周辺回路のトランジスタにHKMGが導入され始めています。高速なDDR5やLPDDR5Xなどで周辺回路の性能を上げるためで、SamsungやSK hynixが採用を進めています。

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