SiCとシリコン(Si)の違い

シリコンは半導体産業の標準材料で、ロジックやメモリはもちろん、パワー半導体でもIGBTやMOSFETとして大量に使われています。そこに近年、EVの普及とともに採用を急速に広げているのがSiC(炭化ケイ素)です。ここでは両材料の物性値を並べてSiCがパワー半導体で有利になる理由を説明し、ウェハと製造プロセスの違い、耐圧帯ごとの使い分けを整理します。デバイス同士の比較はSiC MOSFETとIGBTの違い、同じワイドバンドギャップ材料との比較はSiCとGaNの違いもあわせてご覧ください。

最終更新: 2026-09-14

結論:SiC(4H-SiC)シリコン(Si)の違いは?

最大の違いは「高い電圧に耐えられる性質」です。SiCはバンドギャップが約3.3eVとシリコン(約1.1eV)の約3倍、絶縁破壊電界は約10倍あるため、同じ耐圧のデバイスを薄いドリフト層で作れ、オン抵抗と損失を大幅に下げられます。熱伝導率もシリコンの約3倍で高温動作に強く、EVのインバーターや急速充電器で冷却系を含めた小型化に貢献します。一方、SiCウェハは結晶成長が遅く欠陥も残りやすいため、口径は150mmが中心でシリコン(300mm)より小さく、価格も高価です。耐圧600V程度までの用途やコスト重視の用途はシリコン、高耐圧で損失低減の価値が大きい用途はSiC、という使い分けが基本です。

比較表

SiC(4H-SiC)シリコン(Si)
SiC(4H-SiC)シリコン(Si)観点別比較
観点SiC(4H-SiC)シリコン(Si)
バンドギャップ約3.26eV約1.12eV
絶縁破壊電界約2.8MV/cm(シリコンの約10倍)約0.3MV/cm
熱伝導率約4.9W/(cm·K)約1.5W/(cm·K)
電子移動度(バルク)約1,000cm²/(V·s)約1,400cm²/(V·s)
主流のウェハ口径150mm(200mmへ移行中)300mm(パワー用途は200mmも多い)
結晶成長昇華法(2,000℃以上)で成長が遅く、欠陥が残りやすいCZ法で大口径・低欠陥の結晶を効率よく引き上げられる
ドーピング熱拡散がほぼ起きないため、高温イオン注入と1,600℃以上の活性化アニールが必要イオン注入と1,000℃前後のアニール。熱拡散も使える
加工性非常に硬く、切断・研削・研磨に時間がかかる加工技術が成熟している
主なパワーデバイスSiC MOSFET、SiCショットキーバリアダイオードIGBT、スーパージャンクションMOSFET、各種ダイオード
得意な耐圧帯650V〜3.3kV程度数十V〜600V程度(IGBTは数kVの高耐圧にも対応)

耐圧の高さが損失の低さに変わる理由

パワーデバイスは、オフ状態で高い電圧を支え、オン状態では電流を少ない損失で流す必要があります。高い電圧を支えるのは、ドーピング濃度の低いドリフト層と呼ばれる領域です。材料の絶縁破壊電界が高いほど、同じ電圧を薄く、しかも高いドーピング濃度のドリフト層で支えられます。ドリフト層が薄く濃いほど電流が流れるときの抵抗は小さくなるため、絶縁破壊電界が約10倍のSiCでは、同じ耐圧のシリコンデバイスに比べてドリフト層の抵抗を理論上2桁以上小さくできます。これが、SiCで電力変換の損失を減らせる根本的な理由です。

スイッチングと高温動作での利点

シリコンで高耐圧を実現するIGBTは、電子と正孔の両方を使って抵抗を下げる代わりに、オフにする際に残ったキャリアが抜けるまで電流が流れ続けるテール電流があり、スイッチング損失が大きくなります。SiCでは高耐圧でもユニポーラ型のMOSFETを使えるため、この損失がほとんど生じず、高い周波数で動作させられます。周波数を上げるとコイルやコンデンサを小さくできるので、装置全体の小型化につながります。さらにバンドギャップが広いことで高温でもリーク電流が増えにくく、熱伝導率が高いことで熱を逃がしやすいため、冷却系を簡素化できます。

ウェハが高価で小さい理由

シリコン単結晶は融液から引き上げるCZ法で、直径300mmの低欠陥な結晶を効率よく作れます。SiCは常圧では融解せずに昇華してしまうため、2,000℃を超える高温でSiCの原料を昇華させ、種結晶の上に再結晶させる昇華法(改良レーリー法)で結晶を育てます。成長速度はシリコンより桁違いに遅く、マイクロパイプや基底面転位といった結晶欠陥も残りやすいため、大口径化と歩留まりの向上に時間がかかっています。さらにSiCは非常に硬く、インゴットの切断や研磨にも時間がかかります。こうした理由から、SiCウェハは同じ面積のシリコンウェハに比べて大幅に高価です。

製造プロセスの違い

SiCでは不純物がほとんど熱拡散しないため、pn接合の形成はイオン注入に頼ります。注入による結晶ダメージを抑えるためにウェハを数百℃に加熱した状態で注入し、その後1,600℃を超える高温で活性化アニールを行う必要があり、専用の装置が要ります。また、SiCを熱酸化して作るゲート酸化膜は、界面に炭素に由来する欠陥が残りやすく、MOSFETのチャネル移動度がシリコンより大幅に低くなるという課題があります。基底面転位がエピ層に伝わると、通電中に特性が劣化するバイポーラ劣化の原因にもなるため、エピタキシャル成長の段階での欠陥制御も重要です。

まとめ(どちらを選ぶか)

耐圧が600V程度までで、コストが重視される用途では、成熟したシリコンのMOSFETやIGBTが合理的です。EVの駆動用インバーターや急速充電器、太陽光発電のパワーコンディショナのように、高耐圧で損失と装置サイズを減らしたい用途ではSiCが有利です。判断の軸は、SiCデバイスの価格の高さを、損失の低減と冷却系・受動部品の小型化で取り返せるかどうかです。

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よくある質問

SiCはシリコンを置き換えるのですか?
全面的には置き換えません。ロジックやメモリはシリコンが前提で、パワー半導体でも低中耐圧やコスト重視の用途ではシリコンが引き続き主流です。SiCが置き換えを進めているのは、EVのインバーターなど高耐圧で損失低減の価値が大きい領域です。
4H-SiCとは何ですか?
SiCには原子の積み重なり方が異なる多数の結晶構造(ポリタイプ)があり、4H-SiCはその一つです。電子移動度が高く、その方向による違いも小さいことから、パワーデバイスには主に4H-SiCが使われています。
SiCウェハの主なメーカーはどこですか?
Wolfspeed、Coherent、ロームグループのSiCrystal、STMicroelectronicsなどが主要メーカーで、中国企業も生産を急速に拡大しています。デバイスメーカーが基板からの一貫生産を進める動きもあります。
SiCデバイスを手がける日本企業はありますか?
ローム、三菱電機、富士電機、東芝、デンソーなどがSiCパワーデバイスを手がけています。鉄道車両、産業機器、EV向けで実績を積んでいます。

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