ワイドバンドギャップ半導体(WBG)とは、シリコン(Si、約1.1eV)よりも大きなバンドギャップを持つ半導体材料の総称です。代表格はSiC(炭化ケイ素、約3.26eV)とGaN(窒化ガリウム、約3.4eV)で、さらに広い酸化ガリウム(Ga₂O₃、約4.8eV)やダイヤモンド(約5.5eV)も次世代材料として研究されています。
バンドギャップが広いことの直接の帰結は、絶縁破壊電界強度が高くなることです。SiCの絶縁破壊電界はSiのおよそ10倍あり、同じ耐圧を確保するのに必要なドリフト層をずっと薄く、かつ高濃度にできます。ドリフト層はオン抵抗の主要因なので、結果として同じ耐圧でオン抵抗を大幅に下げられます。これがWBGデバイスが「低損失」と言われる根拠です。
第二の帰結は高温動作です。バンドギャップが広いと熱によるキャリアの励起が起こりにくく、真性キャリア濃度が低く保たれます。SiCデバイスは200℃を超える環境でも動作でき、冷却機構を小型化できるため、システム全体の体積と重量を削減できます。
第三に、高速スイッチングが可能になります。ドリフト層が薄く蓄積キャリアが少ないため、ターンオフ時のテール電流が小さく、スイッチング損失を抑えたまま周波数を上げられます。周波数が上がるとトランス・インダクタ・コンデンサといった受動部品を小型化できるため、電源全体の電力密度が向上します。GaNの急速充電器が小さいのはこの効果によるものです。
一方で課題も明確です。SiCは結晶欠陥の制御が難しくウェハが高価で、長く150mm口径が中心でした。GaNはSi基板上に成長させるGaN-on-Siが主流でコストは下げやすいものの、縦型構造が作りにくく高耐圧化に制約があります。用途ごとの適材適所が当面続く見通しです。