結論:GaN-on-SiとGaN-on-SiCの違いは?
両者の違いは「コストを取るか、放熱を取るか」に集約されます。GaN-on-Siは基板が安価で200mmまで大口径化でき、既存のシリコン製造ラインを流用できるため、650V以下のパワースイッチや民生用途でコスト優位に立ちます。GaN-on-SiCは基板が高価で口径も小さい一方、SiCの高い熱伝導率により発熱を逃がせるため、基地局や防衛用途の高出力RFアンプで主流です。
比較表
| 観点 | GaN-on-Si | GaN-on-SiC |
|---|---|---|
| 基板コスト | 安価(シリコンウェハ) | 高価(PVT法で作るSiC基板) |
| 対応口径 | 150〜200mmが実用、大口径化しやすい | 150mmが主流、200mmへ移行中 |
| 格子不整合 | 約17%と大きい | 約3.4%と小さい |
| 熱膨張差 | 約54%と大きくクラック対策が必要 | 小さく応力管理が比較的容易 |
| バッファ層 | AlN核生成層+傾斜/超格子バッファが必須 | 薄いAlN核生成層で足りる |
| 熱伝導率(基板) | 約150 W/m·K | 約370〜490 W/m·K(放熱に有利) |
| 主な用途 | 650V以下のパワースイッチ、急速充電器、電源 | 基地局・衛星・防衛用の高出力RFアンプ |
| 製造ライン | 既存のシリコンラインを流用可能 | 化合物半導体専用ラインが中心 |
シリコン基板が技術的に難しい理由
GaNとシリコンは格子定数が約17%、熱膨張係数が約54%も違います。そのまま成長させれば転位が大量に発生し、降温時の引張応力でウェハにクラックが入ります。これを回避するため、まずシリコンと反応しないAlN核生成層で表面を完全に覆い(メルトバック・エッチングの防止)、その上にAl組成を段階的に変える傾斜バッファ層や超格子バッファを重ねて、応力と転位を段階的に緩和する多層構造が使われます。この複雑なバッファ設計そのものが各社の技術的な差別化点です。
放熱がRF用途で決定的になる理由
高周波電力増幅器では、チップ面積あたりの発熱密度が非常に高くなります。GaN自体の性能が優れていても、発生した熱を基板側へ逃がせなければチャネル温度が上がり、出力と信頼性が低下します。SiCの熱伝導率はシリコンの2〜3倍あり、この放熱経路の差がそのまま扱える出力の差になるため、基地局や衛星通信のような高出力RF用途ではGaN-on-SiCが選ばれます。
棲み分けは今後も続くのか
パワースイッチ領域では、GaN-on-Siのコストと口径の優位が明確で、急速充電器やデータセンター電源での採用が広がっています。一方、高出力RFではSiC基板の放熱優位が動かしにくく、両者は競合というより用途による棲み分けの関係にあります。加えて、成長後にシリコン基板を除去して素子層だけを高熱伝導体へ転写する手法も研究されており、「基板を選ぶ」という前提自体を変える方向も模索されています。