結論:ドライ真空ポンプとターボ分子ポンプ(TMP)の違いは?
両者は競合ではなく役割分担の関係です。ドライポンプは大気圧から数Pa程度までの粗引きを担う一次側ポンプ、ターボ分子ポンプ(TMP)はその先の10⁻¹〜10⁻⁸Paという高真空を作る二次側ポンプです。TMPは分子流領域でしか働かず排気側にも背圧の制約があるため、単体では使えず必ずドライポンプと直列に接続して運用します。
比較表
| 観点 | ドライ真空ポンプ | ターボ分子ポンプ(TMP) |
|---|---|---|
| 担当する圧力域 | 大気圧(10⁵Pa)〜数Pa(粗引き・低真空) | 10⁻¹〜10⁻⁸Pa(高真空〜超高真空) |
| 排気の原理 | 多段ルーツ/スクリューで気体を機械的に圧縮・排出 | 高速回転翼が気体分子に運動量を与え排気方向へ弾く |
| 単体運用 | 可能(大気圧から引ける) | 不可(分子流領域が前提。バックポンプが必須) |
| 回転数 | 数千rpm級 | 数万rpm級(磁気軸受で非接触支持) |
| 堆積性ガスへの対応 | 本体加熱+N₂パージで析出を防ぐ | 翼への付着がアンバランスを招く。パージ・コーティングで対策 |
| 苦手な気体 | 特になし(機械的に押し出す) | H₂・Heなど軽い分子(複合型で背圧耐性を補う) |
| 主な用途 | 全プロセス装置の一次排気・TMPのバックポンプ | エッチング・PVD・イオン注入・分析装置の高真空 |
| 主なメーカー | Edwards・荏原製作所・樫山工業・Pfeiffer・ULVAC | Pfeiffer・Edwards・荏原製作所・島津製作所・ULVAC |
なぜ2種類を直列につなぐのか
TMPが働くのは、気体分子同士の衝突より壁との衝突が支配的になる「分子流領域」です。大気圧では分子の平均自由行程が短すぎて翼が分子を弾き飛ばせません。そのため、まずドライポンプで数Pa程度まで引いて分子流領域を作り、そこからTMPを立ち上げます。さらにTMPは排気側の圧力(背圧)が一定以下でなければ動作できないため、運転中もドライポンプが下流で引き続けます。
半導体プロセス特有の課題:堆積と腐食
CVDの未反応前駆体やエッチング生成物は、排気経路の温度が下がる場所で固体として析出します。ドライポンプでは本体をヒーターで加熱して析出温度域を避け、N₂パージで希釈・搬送することで固着を防ぎます。TMPでは翼への付着が回転バランスを崩す原因になるため、パージガスの導入と翼のコーティング、温度管理が対策となります。異物の噛み込みによる高速回転体の破損は装置に重大な損傷を与えるため、保護設計も重要です。
運用コストの見方:電力とアップタイム
ドライポンプはファブ内で常時稼働する台数が非常に多く、消費電力の合計が無視できない規模になります。インバータ制御による可変速運転で待機時の電力を下げる省エネ機種が主流です。一方TMPは、装置の真空立ち上げ時間(ポンプダウン時間)を通じてスループットに影響します。いずれもオーバーホールを含む保守サービスが供給側の大きな収益源であり、ファブ側から見れば計画的なPMがアップタイムを左右します。