CHIPSおよび科学法(CHIPS and Science Act)とは、2022年8月に米国で成立した半導体産業支援を目的とした連邦法であり、米国内の半導体製造設備への投資促進・研究開発支援のため総額約527億ドルの補助金・税額控除を提供する政策の根拠法である。中国との技術覇権競争と新型コロナウイルス禍で露呈したサプライチェーンの脆弱性を背景に、半導体製造の国内回帰(Reshoring)と次世代技術開発を国家戦略として推進する。
CHIPS法の主要支援枠組みとして、①製造インセンティブ(390億ドル):先端・成熟ノードの製造・パッケージング施設建設への直接補助金、②研究開発(130億ドル):国立半導体技術センター(NSTC)設立と大学研究支援、③国防省向けセキュリティチップ調達、がある。またCHIPS法受給企業は中国への先端半導体投資を10年間制限する「ガードレール条項」の遵守が義務付けられる。
CHIPS法による主な採択プロジェクトとして、TSMC(アリゾナ、66億ドル)、Samsung(テキサス、64億ドル)、Intel(複数州、85億ドル)、Micron(ニューヨーク・アイダホ)への補助金決定が発表された(2024年時点)。これにより2030年代初頭までに米国内で世界の先端半導体製造能力の約20%を確保することを目指している。
CHIPS法の経済・地政学的影響として、日本・欧州・韓国・インドも同様の半導体支援法を相次いで成立させる「補助金競争」を促した。日本の経済安保推進法・半導体戦略(2030年に国内製造3兆円目標)、EU半導体法(2030年に世界シェア20%目標)がその代表例である。TSMCの熊本工場(JASM)はこの流れの象徴的プロジェクトである。
CHIPS法の課題として、先端ノード製造に必要な熟練技術者・エンジニアの確保(米国での30年以上のブランク埋め合わせ)、原材料・部素材サプライチェーンの整備、高コスト構造(アジア比2〜3倍の製造コスト)への対処がある。長期的な競争力維持のためには、補助金に依存しない産業エコシステムの構築が不可欠であり、大学教育・職業訓練プログラムへの投資も同時に進められている。