フォノン(Phonon)とは、結晶の中で原子が集団で振動する格子振動を、量子力学的に粒子のように扱ったものです。音(phone)を語源とし、光の粒子である光子(フォトン)に対応する言葉として名付けられました。結晶の原子はばねでつながったように互いに結びついており、その振動はとびとびのエネルギーを持つ波として結晶の中を伝わります。隣り合う原子が同じ向きに動く音響フォノンと、逆向きに動く光学フォノンがあります。
フォノンは半導体の電気的な性質に大きく影響します。電子や正孔はフォノンとぶつかって進む向きを変えられる(散乱される)ため、室温のシリコンでは、このフォノン散乱が移動度を決める主な要因の一つで、温度が上がるとフォノンが増えて移動度が下がります。また、シリコンのような間接遷移型の半導体では、光を吸収して電子が移るときに運動量のつじつまを合わせるためフォノンの助けが必要で、これが光の吸収や発光が弱い理由になっています。熱もフォノンによって運ばれ、シリコンの熱伝導率(室温で約150W/m・K)を決めます。
デバイスと計測でもフォノンが登場します。微細なトランジスタやナノシートでは、表面や界面でのフォノンの散乱が熱を逃がしにくくし、自己発熱による特性の低下や信頼性の問題になります。高誘電率(High-k)のゲート絶縁膜では、膜の中の振動がチャネルの電子を散乱させる(リモートフォノン散乱)ため、移動度が下がる要因になります。計測では、光学フォノンによって光の波長がわずかにずれるラマン散乱を使い、シリコンのピーク(約520cm⁻¹)のずれから、結晶に加わる応力やひずみを非破壊で測ります。