特殊ガス(Specialty Gas)とは、半導体製造プロセスで使用される高純度・特定組成の各種ガスの総称です。CVD成膜(シラン・TiCl₄・WF₆)・ALD(TMA・TDMAT)・エッチング(CF₄・SF₆・Cl₂・HBr)・ドーピング(AsH₃・PH₃・BF₃)・露光(ArFレーザー用ArF混合ガス)・洗浄(HF・NH₃)など多岐にわたる工程で使われます。純度要件は6N(99.9999%)以上が標準で、1ファブ当たり数百種類のガスが管理されています。
半導体プロセスに使用される主要特殊ガスの分類と用途を整理します。(1)成膜ガス:SiH₄(シラン・CVD-Si)・Si₂H₆(ジシラン)・TiCl₄(TiN-ALD)・WF₆(W-CVD)・TMA(Al₂O₃-ALD)・TDMAT(TiN-ALD)。(2)エッチングガス:CF₄・CHF₃・C₄F₆(酸化膜エッチ)・HBr・Cl₂(Si・Poly-Siエッチ)・SF₆(Siの等方エッチ)・BCl₃(Alエッチ)。(3)ドーパントガス:AsH₃・PH₃(n型)・BF₃(p型)。(4)キャリア・パージガス:N₂・Ar・He・H₂。
特殊ガスの安全管理は半導体ファブ運営の最優先事項の一つです。AsH₃(アルシン)・PH₃(ホスフィン)・SiH₄(自然発火性)・HF・WF₆は高毒性・可燃性・腐食性を持ち、専用のガスキャビネット(GasBox)・ガス漏洩検知システム・緊急シャットオフバルブ・スクラバー(有害ガス排気処理装置)が必須インフラです。日本では高圧ガス保安法・労働安全衛生法に基づく厳格な管理が求められます。
地政学・輸出規制リスクが特殊ガス市場を揺さぶっています。クリプトン(Kr)・ネオン(Ne)はウクライナが世界最大の精製拠点でしたが、2022年のロシア・ウクライナ紛争でサプライチェーンが混乱しKr・Neの価格が10倍超に急騰しました。米中摩擦の中、フッ素系ガス(NF₃・SF₆・F₂)や高純度窒素の中国からの調達リスクも顕在化しており、日本・韓国・欧州でのガス国産化・在庫積み増しが進んでいます。Air Products・Linde・Air Liquide・昭和電工が主要グローバルサプライヤーです。
フッ素系温室効果ガス(PFC:PerfluoroCarbon)の排出規制が業界の課題です。CF₄・SF₆・NF₃は地球温暖化係数(GWP)がCO₂の数千〜2万倍に達するため、京都議定書・パリ協定の下で排出削減が義務づけられています。各ファブはPFCのポイントオブユース処理(燃焼式・プラズマ式スクラバー)と代替ガス(低GWP品)への移行を進めています。NF₃(リモートプラズマクリーニング用)の国産化・リサイクルシステムも研究されています。