ドリフト電流と拡散電流は、半導体の中でキャリア(電子・正孔)が流れる2つの仕組みです。ドリフト電流は、電界に引かれてキャリアが移動することで流れる電流です。拡散電流は、キャリアが濃度の高い場所から低い場所へ広がることで流れる電流です。金属の電流はほぼドリフトだけで説明できますが、半導体ではドーピングによって場所ごとにキャリア濃度が大きく異なるため、両方を考える必要があります。
電子のドリフト電流密度は J=qnμE で表され、電荷q、キャリア濃度n、移動度μ、電界Eに比例します。キャリアの速度は弱い電界では電界に比例しますが、強い電界(シリコンで10⁴〜10⁵V/cm程度以上)では約1×10⁷cm/sで頭打ちになります(速度飽和)。電子の拡散電流密度は J=qD(dn/dx)で表され、濃度の勾配と拡散係数Dに比例します。移動度と拡散係数はアインシュタインの関係式 D=(kT/q)μ で結ばれており、室温ではkT/qは約0.026Vです。
pn接合では、熱平衡の状態で濃度差による拡散電流と、内蔵電位による電界のドリフト電流が釣り合い、正味の電流はゼロになります。順方向に電圧をかけると障壁が下がって拡散電流が指数関数的に増え、これがダイオードの整流作用の源になります。MOSFETでは、オンの状態(強反転)ではチャネルのドリフト電流が主役ですが、しきい値電圧以下のサブスレッショルド領域では拡散電流が支配的になり、ドレイン電流がゲート電圧に対して指数関数的に変化します。その傾きの限界(室温で約60mV/桁)が、低電圧化の壁になっています。2つの電流を組み合わせたドリフト拡散モデルは、デバイスシミュレーション(TCAD)の基本となる考え方です。