電気伝導(導電率)とは

Electrical Conduction (Conductivity)

最終更新:2026-09-14製造プロセス

電気伝導(導電率)とは?

電気伝導とは、電子や正孔などのキャリアが移動して電流が流れる現象で、流れやすさは導電率σ(S/cm、抵抗率の逆数)で表します。半導体では σ = q(nμₙ + pμₚ) とキャリア濃度と移動度の積で決まり、ドーピングで何桁も変えられます。銅の約6×10⁵S/cmからSiO₂の10⁻¹⁴S/cm以下まで20桁以上の幅があり、この違いが導体・半導体・絶縁体の区別になります。

定義・解説

電気伝導とは、物質中を電荷を持った粒子(キャリア)が移動することで電流が流れる現象です。その流れやすさを表す物性値が導電率(電気伝導度、σ)で、単位はS/cm(またはS/m)です。導電率は抵抗率ρの逆数(σ = 1/ρ)にあたり、導体・半導体・絶縁体の区別は、この値が20桁以上にわたって異なることに対応しています。

半導体の導電率は σ = q(nμₙ + pμₚ) と表されます。q は電気素量、n と p は電子と正孔の濃度、μₙ と μₚ はそれぞれの移動度です。導電率を決めるのは「動けるキャリアがどれだけあるか」と「それぞれがどれだけ動きやすいか」の積であり、半導体ではドーピングによってキャリア濃度を何桁も変えられるため、導電率を用途に合わせて設計できます。

電流の流れ方には、電界によってキャリアが押し流されるドリフト電流と、濃度の高い場所から低い場所へキャリアが広がる拡散電流の2種類があります。金属の電気伝導はほぼドリフトだけで説明できますが、半導体デバイスでは両方が重要です。pn接合の順方向電流は拡散電流が主役で、MOSFETのチャネルでは動作条件によってドリフトと拡散の比重が入れ替わります。移動度と拡散係数はアインシュタインの関係 D = (kT/q)μ で結ばれています。

温度に対する振る舞いは、金属と半導体で逆になります。金属ではキャリア濃度がほぼ一定で、温度が上がると格子振動による散乱が増えるため導電率は下がります。真性半導体では、温度が上がるとバンドギャップを越えて励起されるキャリアが指数関数的に増えるため、導電率は急激に上がります。ドーピングした半導体は常温付近ではキャリア濃度がほぼ一定なので、温度上昇でわずかに導電率が下がる、金属に近い振る舞いを示します。

絶縁体とされる材料にも、強い電界のもとではわずかな電流が流れます。薄いゲート絶縁膜を電子がすり抜けるトンネル伝導や、膜中のトラップ準位を介して電子が移動するプール・フレンケル伝導などで、これらはリーク電流や絶縁膜の信頼性を決める要因になります。反対に配線の銅では、線幅が電子の平均自由行程(約40nm)に近づくと表面や粒界での散乱が増え、抵抗率がバルクの値より上がるサイズ効果が問題になっています。

図解

導体・半導体・絶縁体の導電率を対数目盛で比較した図。銅・アルミ・タングステン、ドープしたシリコン、真性シリコン、半絶縁性GaAs、SiO2の位置と、導電率の式を示す。
導電率は20桁以上の幅を持つ ─ シリコンはドーピングだけで約8桁動く

材料ごとの抵抗率と導電率

導電率は物性値の中でも特に幅が広く、配線の銅から絶縁膜の SiO₂ まで20桁以上にわたります。 半導体の製造は、この両端の材料を数 nm の距離で隣り合わせに作り込む技術ともいえます。 導体と絶縁体を分けているのは、電子が入れる伝導帯との間のバンドギャップの有無と大きさです。

材料抵抗率 ρ(Ω·cm)導電率 σ(S/cm)位置づけ
銅(Cu)1.7×10⁻⁶5.9×10⁵導体(配線)
アルミニウム(Al)2.7×10⁻⁶3.7×10⁵導体(配線)
タングステン(W)5.3×10⁻⁶1.9×10⁵導体(コンタクトプラグ)
高濃度ドープ Si(10²⁰ cm⁻³)約1×10⁻³約1×10³縮退した半導体(ソース・ドレイン)
n 型 Si(10¹⁶ cm⁻³)0.462.2半導体
p 型 Si(10¹⁶ cm⁻³)1.40.72半導体
真性 Si約3×10⁵約3×10⁻⁶半導体(ほぼ絶縁体)
半絶縁性 GaAs10⁷〜10⁸10⁻⁸〜10⁻⁷高周波デバイスの基板
SiO₂(熱酸化膜)10¹⁴〜10¹⁶10⁻¹⁶〜10⁻¹⁴絶縁体

室温・バルクでの目安です。Si の値は代表的な移動度を使った計算値で、薄膜や微細配線では値が変わります。

計算してみる:ドーピングで導電率はどう変わるか

σ = q (n·μn + p·μp)

ドナー濃度 1×10¹⁶ cm⁻³ の n 型シリコンでは、電子濃度 n ≈ 1×10¹⁶ cm⁻³、電子の移動度 μn ≈ 1,350 cm²/V·s で、正孔の寄与は無視できます。

σ = 1.6×10⁻¹⁹ × 1×10¹⁶ × 1,350 ≈ 2.2 S/cm → ρ ≈ 0.46 Ω·cm

同じ濃度の p 型では、正孔の移動度が約450 cm²/V·s と電子の3分の1ほどしかないため、σ ≈ 0.72 S/cm(ρ ≈ 1.4 Ω·cm)になります。 キャリアの数が同じでも導電率が3倍違うことが、CMOS 回路で PMOS のトランジスタ幅を NMOS より広く取る理由です。

n と μ は独立ではない

ドーピングを増やせばキャリアは増えますが、イオン化した不純物がキャリアを散乱するため、移動度は下がります。 ドナー濃度を 10¹⁶ から 10²⁰ cm⁻³ へ1万倍にしても、導電率は数百倍にしか増えません。 抵抗率だけを見ていると、キャリア濃度と移動度のどちらが変わったのか区別できない点には注意が必要で、 両者を分けて知るにはホール効果測定を使います。

ドリフト電流と拡散電流

半導体中の電子による電流密度は、電界で押し流される成分と、濃度差で広がる成分の和で書けます。

Jn = q·n·μn·E + q·Dn·(dn/dx)

第1項がドリフト電流、第2項が拡散電流です。拡散係数 D と移動度 μ は、どちらも「キャリアが結晶中をどれだけ自由に動けるか」を表す量なので、 アインシュタインの関係で結ばれています。

D = (kT / q) · μ (300 K で kT/q ≈ 25.9 mV)

電子の移動度が 1,400 cm²/V·s なら、Dn ≈ 36 cm²/s です。

強い電界では v = μE が成り立たない

ドリフト速度が移動度と電界の積に比例するのは、電界が弱いときだけです。シリコン中の電子の速度は 10⁷ cm/s 程度で飽和し、 それ以上電界を強めても速くなりません。チャネル長 50 nm のトランジスタに 1 V をかけると平均電界は 2×10⁵ V/cm に達し、 低電界の式で計算した速度(2.8×10⁸ cm/s)は飽和速度を大きく超えます。微細なトランジスタの電流が移動度だけでは決まらないのはこのためです。

絶縁膜を流れる電流:伝導機構の見分け方

理想的な絶縁体には電流が流れませんが、実際の絶縁膜には強い電界のもとでわずかな電流が流れ、これがリーク電流や絶縁破壊の前兆になります。 どの機構で流れているかは、電界と温度への依存性で見分けます。

伝導機構何が起きているか電界・温度への依存問題になる場面
直接トンネル数 nm 以下の薄い膜を電子がすり抜ける膜厚に対し指数関数的。温度にほぼ依存しない薄いゲート酸化膜のリーク(High-k 導入の理由)
FN トンネル強い電界で三角形になった障壁を抜けるln(J/E²) と 1/E が直線関係。温度にほぼ依存しないフラッシュメモリの書き込み・消去
プール・フレンケル伝導膜中のトラップに捕まった電子が、電界の助けで熱的に抜け出すln(J/E) と √E が直線関係。温度で増えるSiN 膜や欠陥の多い絶縁膜のリーク
ショットキー放出電極の電子が障壁を熱的に越えて膜へ入るln(J) と √E が直線関係。温度で増える金属電極と High-k 膜の界面
ホッピング伝導局在した準位の間を電子が跳び移る低電界ではオーム的。温度で増えるアモルファス膜・劣化した絶縁膜

実務では、温度を変えて電流-電圧特性を測るのが第一歩です。温度でほとんど変わらなければトンネル伝導、 温度とともに増えれば熱が関与するプール・フレンケル伝導やショットキー放出が疑われます。 プール・フレンケル伝導は膜中のトラップが電流の通り道になる機構で、 SiN 膜に電荷を蓄えるチャージトラップフラッシュでは、同じトラップ準位が情報を保持する役割を担っています。 薄膜化の限界はゲート酸化膜、トンネル電流による書き込みはフラッシュメモリの解説も参照してください。

微細配線では銅の抵抗率はバルク値にならない

銅の中を電子が散乱されずに進める平均距離(平均自由行程)は、室温で約40 nm です。 配線幅がこの距離に近づくと、電子が配線の表面や結晶粒界で散乱される割合が増え、抵抗率はバルクの 1.7 µΩ·cm より大きくなります。 さらに銅は拡散を防ぐバリアメタルで囲む必要があり、抵抗の高いバリア層が断面積の一部を占めることも実効抵抗を押し上げます。

ルテニウムはバルクの抵抗率が銅より高いものの、平均自由行程が短いためサイズ効果が小さく、バリアを薄くできる可能性もあります。 先端ノードの細い配線でルテニウム配線が検討されているのは、 バルクの導電率ではなく、極細の線での実効的な導電率で材料を選ぶ段階に入ったためです。銅配線の信頼性を決めるエレクトロマイグレーションも、 電子の流れが金属原子を押し流す、電気伝導と表裏一体の現象です。

あわせて読みたい

エネルギーバンド図の読み方(図解)→四探針法とホール効果測定の違い(比較)→抵抗率(比抵抗)とは →

よくある質問(FAQ)

導電率と抵抗率の関係は?
互いに逆数の関係です(σ = 1/ρ)。抵抗率がΩ·cmで「電気の流れにくさ」を表すのに対し、導電率はS/cm(ジーメンス毎センチメートル)で「流れやすさ」を表します。半導体の現場では抵抗率で表すことが多く、物性の議論や桁の違う材料を比べるときには導電率がよく使われます。
ドリフト電流と拡散電流の違いは何ですか?
ドリフト電流は、電界によってキャリアが押し流されて生じる電流です。拡散電流は、キャリアの濃度に差があるとき、濃い場所から薄い場所へ広がることで生じる電流で、電界がなくても流れます。金属では前者だけを考えればよいのに対し、半導体デバイスではキャリア濃度に大きな差ができるため両方が重要になります。
なぜ半導体は温度が上がると電気を通しやすくなるのですか?
熱エネルギーによってバンドギャップを越えて伝導帯に上がる電子が増え、キャリアの数そのものが増えるためです。真性キャリア濃度は温度に対して指数関数的に増えるので、移動度が多少下がってもそれを上回ります。金属はもともとキャリアが十分に多く数がほとんど変わらないため、散乱の増加だけが効き、温度が上がると電気を通しにくくなります。
NMOSがPMOSより速いのはなぜですか?
電子の移動度が正孔より大きいためです。シリコンでは低濃度の場合、電子が約1,400cm²/V·s、正孔が約450cm²/V·sと3倍程度の差があります。同じ電流を流すにはPMOSのトランジスタ幅を広く取る必要があり、CMOS回路の設計ではこの差を考慮してサイズを決めます。

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