化学量論的組成(ストイキオメトリ:Stoichiometry)とは、化合物を構成する元素の割合が、化学式どおりの整数比になっている状態のことです。たとえば窒化シリコンSi₃N₄ならシリコンと窒素が3対4、二酸化シリコンSiO₂なら1対2、ガリウムヒ素GaAsなら1対1の比率がそれにあたります。比率がこれからずれた状態を非化学量論的組成(不定比組成)と呼び、SiOxやSiNxのように組成を変数xで表すことがあります。「化学量論」自体は、化学反応に関わる物質の量の関係を扱う化学の分野の名前です。
半導体の薄膜では、成膜方法によって組成がずれることが珍しくありません。高温の減圧CVD(LPCVD)で作る窒化シリコン膜はほぼ化学量論的なSi₃N₄になり、屈折率は約2.0です。一方、低温のプラズマCVDで作る窒化膜は水素を多く含み、シリコンと窒素の比もずれます。シリコンを多めにしたシリコンリッチな窒化膜は、膜の応力を下げたり電荷を蓄えたりする目的で意図的に使われます。組成のずれは屈折率やエッチング速度、絶縁性、応力などの性質を大きく変えるため、屈折率測定やXPS(X線光電子分光)、RBSなどで組成を管理します。
ゲート絶縁膜のHfO₂などの高誘電率膜では、酸素が足りない部分(酸素空孔)が電荷の捕獲やリーク電流、しきい値電圧の変動の原因になるため、組成の制御が重要です。化合物半導体のGaAsやSiCでも、結晶を作るときの元素の比がわずかにずれると点欠陥が増え、電気的な特性が変わります。抵抗変化メモリ(ReRAM)のように、酸素の不足(非化学量論性)を積極的に利用して動作させるデバイスもあります。