仕事関数メタル(Work Function Metal:WF Metal)とは、MOSFETの閾値電圧(Vth)を制御するためにゲートスタック内に挿入される金属薄膜層です。High-k/Metal Gate(HKMG)構造において、ゲート絶縁膜(HfO₂)の上に形成されるメタルゲートのうち、Vthチューニングに特化した薄い仕事関数制御層を指します。NFETには低仕事関数材料(~4.0〜4.2eV:TiAlC・TiAl・TiAlN等)、PFETには高仕事関数材料(~4.8〜5.2eV:TiN多層・TaN等)が使用されます。
仕事関数(Work Function)とはゲート電極材料の電子を真空準位まで引き出すのに必要なエネルギー(eV)で、これがMOSFETの閾値電圧を決定します。ポリシリコンゲート時代は不純物ドーピング濃度でVthを調整していましたが、フェルミレベルピニング問題(High-k絶縁膜とポリシリコンの界面でフェルミレベルが固定されVthが制御不能になる現象)により、High-k導入とともにメタルゲートへの移行が必須になりました。メタルゲートでは仕事関数(材料固有の値)が直接Vthに反映されます。
WF Metalの成膜は全てALD(原子層堆積)で行われます。TiNはTiCl₄+NH₃のサーマルALD(約350〜400℃)で成膜され、仕事関数は積層数・Cl残留量・アニール条件で~4.5〜5.0eVの範囲でチューニング可能です。NFETに必要な低仕事関数にはAlを含む前駆体(TDEAl等)を用いたTiAlC/TiAlN層をTiNの上に追加します。先端ノードでは4〜6種類の異なる仕事関数メタルを積層し、多閾値電圧(Multi-Vth)設計を実現します。
Multi-Vth(多閾値電圧)設計とは、同一チップ内に異なる閾値電圧を持つトランジスタを配置し、高速動作領域・低消費電力領域を使い分ける設計手法です。WF Metalの積層数・組成を変えることでNFET/PFETそれぞれに3〜4段階のVthを設定します(Ultra-Low Vth / Standard Vth / High Vth等)。これによりCPUのコアロジックはULVt(高速)、スタンバイ回路はHVt(低リーク)というチューニングが可能になります。
仕事関数メタルの成膜精度は先端ロジックの電気特性を左右する最重要工程の一つです。主要ALD装置メーカーはASM International(Polygon ALD)・Applied Materials(Centura ALD)・Lam Research・東京エレクトロン(TEL)です。前駆体メーカーとしてMerck(TiCl₄・TDEAl・TDMAHf)・Entegris・Air Productsが主要サプライヤーです。GAAナノシートではナノシート間のWF Metal充填とGate-Cut(ゲート分断)技術の精度がますます重要になっています。