比較トランジスタ最終更新 2026-10-19

トンネルFETとMOSFETの違い

トランジスタの消費電力を下げるには、電源の電圧を下げるのが最も効果的です。しかし、MOSFETには電圧を下げるとオンとオフの差が取りにくくなる物理的な限界があります。その限界を超える候補として研究されているのがトンネルFETです。ここでは2つの違いを、動作の仕組みから整理します。

結論

違いは、電子がソースからチャネルへ移る仕組みです。MOSFETは、熱エネルギーでエネルギーの壁を越えた電子が電流になるため、室温では電流を10倍にするのに少なくとも約60mVのゲート電圧が必要という下限(60mV/dec)があります。トンネルFET(TFET)は、トンネル効果で壁をすり抜けた電子が電流になるため、この下限を超えて急峻に切り替えられ、低い電圧で動かせる可能性があります。一方で、オンのときに流れる電流が小さいことが最大の課題で、量産されているMOSFETに対し、TFETはまだ研究段階です。

主な違い

トンネルFET(TFET)とMOSFETの観点別比較
観点トンネルFET(TFET)MOSFET
電流の仕組みトンネル効果で壁をすり抜けた電子熱エネルギーで壁を越えた電子
構造p-i-n(ソースとドレインが逆の型)n-p-n/p-n-p(ソースとドレインが同じ型)
切り替えの急峻さ60mV/decより急峻にできる室温で約60mV/decが下限
低電圧での動作有利電圧を下げるとオン・オフの差が小さくなる
オン電流小さい(最大の課題)大きい
状況研究段階あらゆるチップで量産

MOSFETの60mV/decの壁

MOSFETでは、ソースにある電子のうち、熱エネルギーでチャネルとの間の壁を越えられるものが電流になります。熱エネルギーを持つ電子の数は温度で決まる分布に従うため、室温では、ゲートの電圧を約60mV変えても電流は10倍にしかなりません。これがサブスレッショルドスイングの下限で、電源の電圧を下げると、オンとオフの電流の差を十分に取れなくなります。

TFETは壁をすり抜けて下限を超える

TFETは、ソースをp型、ドレインをn型にした構造で、ゲートの電圧でソースとチャネルのエネルギーの帯の重なりを変えます。帯が重なると、電子はトンネル効果で壁をすり抜けて流れます。熱エネルギーの分布に頼らないため、60mV/decの下限に縛られず、小さな電圧の変化で急峻に電流を切り替えられます。

実用化にはオン電流の向上が必要

トンネル効果で通り抜けられる電子の量には限りがあり、シリコンのTFETのオン電流は、MOSFETに比べて桁違いに小さくなります。これでは回路を速く動かせません。バンドギャップの小さいゲルマニウムやIII-V族化合物、二次元材料、異なる材料を組み合わせたヘテロ接合で電流を増やす研究が続いていますが、量産の見通しは立っておらず、当面はGAAやCFETといったMOSFETの延長の技術が主流です。

よくある質問

サブスレッショルドスイングとは何ですか?
トランジスタがオフからオンに切り替わる途中の領域で、電流を10倍にするのに必要なゲートの電圧の変化量です。単位はmV/dec(1桁あたりのmV)で、値が小さいほど小さな電圧の変化で急峻に切り替えられます。MOSFETでは室温で約60mV/decが理論上の下限です。
60mV/decの壁を超える方法はTFETだけですか?
TFETのほかに、ゲートに強誘電体を加えて電圧を内部で増幅する負性容量FET(NCFET)や、機械的にスイッチする素子なども研究されています。いずれも研究段階で、現在の量産では、MOSFETの構造をFinFETやGAAへと進化させて、60mV/decにできるだけ近づける方向で改良が続いています。

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