サブスレッショルド領域(Subthreshold Region)とは、MOSトランジスタのゲート電圧がしきい値電圧(Vth)より低く、トランジスタが本来オフのはずの状態でも、わずかなドレイン電流が流れる領域のことです。この電流はサブスレッショルド電流(サブスレッショルドリーク)と呼ばれ、チャネルに反転層ができる前の段階で、キャリアが拡散によって流れることで生じます。電流はゲート電圧に対して指数関数的に変化するのが特徴です。
サブスレッショルド領域での電流の変化の急さを表すのがサブスレッショルドスイング(S値、サブスレッショルド係数)で、電流を10倍変えるのに必要なゲート電圧の変化(mV/dec)で表します。S値が小さいほど、少しの電圧でトランジスタを素早くオン・オフでき、オフのときの電流を小さく保てます。通常のMOSトランジスタでは、室温でS値を約60mV/decより小さくすることは原理的にできず、これはキャリアの熱による分布で決まる限界(ボルツマンの壁)です。
サブスレッショルドの特性は、消費電力と微細化に直結します。電源電圧を下げるにはしきい値電圧も下げる必要がありますが、S値が約60mV/decより下げられないため、しきい値電圧を下げるとオフのときのリーク電流が指数関数的に増えます。これが、デナードのスケーリングが行き詰まった大きな理由の一つです。微細化でゲートの支配力が弱まるとS値が悪化するため、チャネルを立体的に囲むFinFETやGAAでゲートの支配力を高め、理想に近い値を保っています。60mV/decの限界を超える急峻なスイッチを目指して、トンネルFETや負性容量FETも研究されています。逆に、サブスレッショルド領域の小さな電流を利用して超低消費電力で動かす回路もあります。