バリスティック伝導とは、電子が散乱(原子の振動や不純物にぶつかって向きを変えること)をほとんど受けずに、弾丸のようにまっすぐ通り抜ける電気の流れ方です。電子が散乱されずに進める平均の距離(平均自由行程)より、通り道(チャネル)のほうが短いときに起こります。
通常の電気伝導は、散乱を何度も繰り返しながら電界に押されて流れる「拡散的な伝導」で、移動度という考え方で説明されます。ところがチャネルが平均自由行程(シリコンの電子で室温数十nm程度)に近づくと、散乱を受けない電子の割合が増え、移動度だけでは電流を説明できなくなります。完全にバリスティックな細線では、抵抗は長さによらず、1本の通り道あたり約12.9kΩ(量子化コンダクタンス 2e²/h の逆数)という下限の値に近づきます。
現在の微細なトランジスタは、拡散的な伝導とバリスティック伝導の中間の「準バリスティック」な状態で動いています。この領域では、ソース側からチャネルに電子を送り込む速さ(注入速度)と、ソース近くでの散乱が電流を決めるため、移動度の向上より、注入速度を上げるひずみや材料、接触抵抗の低減が重要になります。カーボンナノチューブでは、μm級の長さでもバリスティック伝導が観測されています。