平均自由行程とは、気体の分子やプラズマ中の粒子が、ほかの粒子と衝突してから次に衝突するまでに進む距離の平均です。圧力に反比例し、圧力が下がるほど長くなります。半導体製造では、スパッタやエッチング、CVDの圧力条件を決めるときの基本的な物差しで、真空の質を表す指標にもなります。
平均自由行程は、気体の温度に比例し、圧力と分子の大きさ(衝突断面積)に反比例します。室温の空気(窒素)でおおまかに見積もると、平均自由行程(mm)≒ 6.6 ÷ 圧力(Pa)となり、大気圧(約10万Pa)では約70nmと非常に短いのに対し、1Paでは約7mm、10⁻³Paでは約7mにまで伸びます。
平均自由行程と装置の寸法の比をクヌーセン数と呼び、気体の流れ方が変わる目安になります。平均自由行程が容器や配管より十分短いと分子どうしの衝突が支配的な粘性流になり、十分長いと分子が壁にだけぶつかって進む分子流になります。ターボ分子ポンプが分子流領域で動作するのは、この性質を利用しているためです。
プロセスへの影響として、スパッタでは圧力を下げて平均自由行程を長くすると、ターゲットから飛び出した原子が散乱されずに直進し、深い穴の底まで届きやすくなります。ドライエッチングでも、低い圧力でイオンが衝突せずにシースを通過するほど、ウェハに垂直に入射して異方性の高い加工ができます。一方、CVDでは比較的高い圧力で気相の衝突を利用し、穴の側面まで均一に膜を付けます。
なお「平均自由工程」と書かれることがありますが、正しくは「行程(進む道のり)」です。固体中の電子についても、結晶の原子や不純物に散乱されるまでの平均距離を平均自由行程と呼び、キャリアの移動度や、配線が細くなると抵抗率が上がるサイズ効果を考えるときに使われます。