IRドロップとは、チップ内の電源配線を電流(I)が流れるときに、配線の抵抗(R)によって電圧が下がる現象です。電源パッドから遠いトランジスタほど、実際に受け取る電源電圧が設計値より低くなります。電源電圧が下がるとトランジスタの駆動力が落ちて回路が遅くなり、タイミング違反や誤動作の原因になるため、物理設計では電源配線網をこの電圧降下が許容範囲に収まるよう設計します。許容値の目安は電源電圧の数%程度です。
IRドロップには2種類の見方があります。(1)静的IRドロップ:平均電流を使って定常状態の電圧降下を求めるもので、電源配線の太さや本数が足りているかの確認に使います。(2)動的IRドロップ:多数の回路が同時にスイッチングした瞬間の電流ピークによる一時的な電圧低下で、電源配線の抵抗に加えてインダクタンスやデカップリング容量の影響も受けます。先端ノードでは動的IRドロップの方が問題になりやすくなっています。
対策は主に電源配線網の強化です。電源ストラップの本数や幅を増やす、上位の厚い配線層を電源に割り当てる、電源パッドやバンプを増やす、回路ブロックの近くにデカップリング容量セルを置いて局所的な電荷の蓄えを作る、といった手段が取られます。ただし電源配線を増やせば信号配線に使える資源が減るため、フロアプランの段階から配線資源の配分として計画します。代表的な解析ツールにAnsys RedHawk-SC(現Synopsys)、Cadence Voltusがあります。
IRドロップは微細化とともに厳しくなっています。電源電圧が1V以下に下がる一方で、配線が細くなって抵抗が増え、チップの電流密度は上がるためです。この問題に対する根本策の一つが裏面電源供給(BSPDN)で、ウェハ裏面に太い電源配線を設けることで電源経路の抵抗を大幅に下げます。また電源配線の電流密度が高すぎるとエレクトロミグレーションによる断線も起きるため、IRドロップ解析と同時に信頼性の検証も行います。