ホール効果測定とは、試料に電流を流しながら磁場をかけてホール電圧を測り、キャリアの極性・キャリア濃度・移動度を分離して求める評価手法です。抵抗率はρ=1/(qnμ)とキャリア濃度と移動度の積でしか決まらないため四探針法では両者を分けられませんが、ホール測定はnを独立に与えるのでμ=1/(qnρ)として移動度が出せます。測定はファンデルパウ法の四端子配置で、磁場と電流の向きを反転させた8通りを平均します。
ホール効果測定(ホール測定)とは、試料に電流を流しながら磁場をかけてホール電圧を測り、キャリアの極性・キャリア濃度・移動度を求める半導体の基本的な電気特性評価手法です。抵抗率の測定と組み合わせることで、この3つを分離して一度に得られます。
なぜ抵抗率だけでは足りないのかを押さえると、この手法の位置づけが分かります。半導体の抵抗率は ρ = 1/(qnμ) と、キャリア濃度 n と移動度 μ の積でしか決まりません。つまり同じ抵抗率でも、「キャリアが多いが動きにくい材料」と「キャリアは少ないがよく動く材料」を区別できないのです。ホール効果測定は n を独立に与えるため、μ = 1/(qnρ) として移動度を切り出せます。四探針法などの抵抗率測定にはできないことです。
実際の測定はファンデルパウ法と組み合わせるのが標準です。試料の四隅に電極を付け、まず磁場ゼロで抵抗率を求め、次に磁場をかけて対角の端子間にホール電圧を測ります。このとき磁場の向きと電流の向きをそれぞれ反転させて計8通りの測定を行い、平均を取ります。熱起電力(ゼーベック効果・ネルンスト効果)や電極位置のずれによるオフセット電圧を打ち消すためで、この手順を省くと移動度が数割ずれることもあります。
温度を変えながら測ると、得られる情報は一段と増えます。液体窒素温度(77K)から数百Kまで走査すると、キャリア濃度の温度依存からドナー・アクセプタの活性化エネルギーと補償の程度が読め、移動度の温度依存から支配的な散乱機構(低温では不純物散乱、高温では格子振動による散乱)が判別できます。新材料の素性を調べる際の定番の測り方です。
適用範囲はバルク基板・エピタキシャル層・薄膜・2次元材料と広い一方、限界もあります。導電性基板の上のエピ層のように導電経路が並列に存在する構造では、測定値が両者の平均になってしまい単純な解析ができません。また移動度が極端に低い材料ではホール電圧そのものが小さく、S/N比の確保が課題になります。強磁場やACホール測定は、この問題への対処として使われます。
電気特性の評価手法は複数ありますが、得られる量は同じではありません。 ホール効果測定の位置づけは、この表の3列目と4列目 ── キャリアの極性が分かるか、キャリア濃度と移動度を分離できるか ── に集約されます。
| 手法 | 得られる量 | キャリアの極性 | n と μ の分離 | 製品ウェハへの適用 |
|---|
| 四探針法 | 抵抗率 ρ/シート抵抗 R_s | 分からない | できない | 不可(測定痕が残る) |
| ホール効果測定 | ρ・キャリア濃度 n・移動度 μ | 分かる | できる | 不可(電極が必要) |
| C-V測定 | 深さ方向のキャリア濃度分布 | 分かる | できない | MOS/ショットキー構造が必要 |
| SIMS | 深さ方向の化学的ドーパント濃度 | 分からない | できない | 不可(破壊分析) |
| 渦電流式 | シート抵抗 R_s | 分からない | できない | 可(非接触) |
n と μ を分離できるのがホール効果測定だけである理由は、抵抗率の式を見ると分かります。
ρ = 1 / (q·n·μ)
測れるのは ρ という1つの値なのに、未知数は n と μ の2つあります。四探針法をどれだけ精密にしてもこの2つは分けられません。 ホール効果測定は n を独立に与えることでこの式を解けるようにします。
厚さ t の試料に電流 I を流し、垂直に磁束密度 B をかけたときのホール電圧は次式です。
VH = I·B / (q·n·t)
これを n について解けばキャリア濃度が、抵抗率と組み合わせれば移動度が求まります。
n = I·B / (q·t·VH) μH = |RH| / ρ = 1 / (q·n·ρ)
薄膜のように厚さが分からない試料では、体積濃度の代わりにシートキャリア密度 ns = n·t を使い、シート抵抗 Rs と組み合わせます。 厚さを測らずに済むため、実務ではこちらのほうがよく使われます。
ns = I·B / (q·|VH|) μH = 1 / (q·ns·Rs)
実際の数値を入れてみます。n型シリコン(n = 1×10¹⁶ cm⁻³)の厚さ500 µm の試料に、 I = 1 mA、B = 0.5 T をかけた場合、VH は約0.6 mV になります。 テスターで読める大きさで、これがホール効果が半導体評価に定着した理由です。 同じ条件でも銅のようにキャリア濃度が10²³ cm⁻³ 級の金属ではマイクロボルト級まで落ち、 大電流と強磁場を用意しないと測れません。
ファンデルパウ配置のホール測定では、1つの値を出すのに8回の測定を行います。 手間のように見えますが、これは精度のためではなく、ホール電圧以外の起電力を消すための手続きです。
- 電極位置のずれ(ミスアライメント電圧):対角に置いたつもりの電極が等電位線からずれていると、磁場ゼロでも電圧が出る。磁場を反転しても符号が変わらないため、正負の磁場での差分を取ると消える
- ゼーベック効果:試料内の温度差による熱起電力。電流の向きに依存しないので、電流を反転した測定の差分で消える
- エッチングスハウゼン効果・ネルンスト効果:磁場中で生じる熱電的な副次効果。磁場と電流の両方を反転して平均することで小さくできる
磁場の向き2通り × 電流の向き2通り × 対角の組み合わせ2通りで計8測定。 この平均操作を省くと、材料によっては移動度が数割ずれます。 市販のホール測定システムがこの手順を自動化しているのは、 手で測ると省略されやすい工程だからです。
室温1点の測定でも n と μ は出ますが、温度を振ると材料の素性そのものが見えてきます。 液体窒素温度(77 K)から数百 K まで走査するのが一般的です。
キャリア濃度の温度依存 → ドーパントの準位と補償
ln(n) を 1/T に対してプロットすると、低温側の傾きからドーパントの活性化エネルギーが求まります。 シリコン中のリンやホウ素では約45 meV です。 また、低温での飽和値がドーピング量より小さければ、 反対導電型の不純物による補償が効いていることが分かります。
移動度の温度依存 → 支配的な散乱機構
移動度が温度とともにどう変わるかで、何がキャリアの動きを妨げているかが判別できます。 低温側で μ が温度とともに上がる(おおよそ T3/2)なら、 イオン化した不純物によるクーロン散乱が支配的です。 キャリアが速いほど不純物の近くを素早く通り過ぎ、曲げられにくくなるためです。 高温側で μ が下がる(おおよそ T−3/2)なら、格子振動(音響フォノン)による散乱が支配的です。 両者の間に極大が現れる温度が、材料と不純物濃度を特徴づけます。
ホール移動度はドリフト移動度と同じではない
測定から出てくる μH は正確には「ホール移動度」で、 デバイス設計で使うドリフト移動度 μ とは、 ホール散乱因子 rH の分だけ違います。
μH = rH · μ
rH は散乱機構とバンド構造で決まる1前後の係数で、 シリコン中の電子では約1.15、正孔ではやや大きい値になります。 文献値と自分の測定値を突き合わせるときは、 どちらの移動度を指しているのかを確認しないと、 1割前後の食い違いを装置や試料のせいだと誤解することになります。
導電経路が2つあると値が意味を失う
導電性基板の上に成長したエピ層のように、電流の通り道が並列に存在する構造では、 測定値は両者を合成したものになります。 低抵抗の基板側に電流が逃げると、エピ層の情報はほとんど残りません。 半絶縁性基板を使う、絶縁層で分離する、あるいは メサ加工で測定領域を切り離す、といった試料側の準備が必要です。
電極は「小さく」「周辺に」
ファンデルパウ法が成り立つ前提は、 電極が試料の周辺部にあり、試料に比べて十分小さいことです。 面積の大きい電極を試料の内側に置くと電流分布が乱れ、系統誤差が入ります。 クローバー形やグリークロス形に加工するのは、この誤差を構造で抑えるためです。
ホール効果測定で何が分かりますか?▾
キャリアの極性(n型かp型か)、キャリア濃度、移動度の3つです。抵抗率測定と組み合わせることで、この3つを分離して一度に得られます。温度を変えながら測れば、ドーパントの活性化エネルギーや支配的な散乱機構まで読み取れます。
四探針法との違いは何ですか?▾
四探針法で得られるのは抵抗率(またはシート抵抗)という1つの量だけで、これはキャリア濃度と移動度の積に対応します。同じ抵抗率でも「キャリアが多く動きにくい」のか「少なくてよく動く」のか区別できません。ホール効果測定はキャリア濃度を独立に与えるため、両者を分離できます。
なぜ磁場と電流の向きを反転させて測るのですか?▾
熱起電力や電極位置のずれによるオフセット電圧を打ち消すためです。磁場の向きと電流の向きをそれぞれ反転させて計8通り測り、平均を取ります。この手順を省くと移動度が数割ずれることもあります。
ホール効果測定が使えないのはどんな場合ですか?▾
導電性基板の上のエピ層のように、導電経路が並列に存在する構造です。測定値が両者の平均になってしまい、目的の層だけの値を単純に取り出せません。また移動度が極端に低い材料ではホール電圧が小さく、S/N比の確保が課題になります。