液浸露光(Immersion Lithography)とは、投影レンズとウェハの間に空気の代わりに純水(屈折率n≈1.44)を満たすことで、実効的な露光波長を短縮し解像度を高めたリソグラフィ技術です。ArFエキシマレーザー(193nm)を使う「ArF液浸(ArFi)」が主流であり、193nm÷1.44≒134nmの実効波長が得られます。これにより開口数(NA)を1.0以上(最大1.35)に高めることができ、従来のドライArF(NA最大0.93)より大幅に解像度が向上します。
液浸露光は2004年にTSMCとIBMが共同で90nmノードへの適用を発表し、2006年から量産に導入されました。EUV装置が量産に投入される2019年前後まで、65nm→45nm→28nm→20nmへの微細化を支える中核技術として機能しました。現在もEUVが届かない40nm〜130nmのレガシーノードや、EUVとの組み合わせ(ハイブリッド露光)として最先端ファブでも多数稼働しています。
液浸露光単体の解像度限界を超えるために「マルチパターニング」技術が組み合わせて使われます。代表的なものに「LELE(Litho-Etch-Litho-Etch)」「SADP(Self-Aligned Double Patterning)」「SAQP(Self-Aligned Quad Patterning)」があり、10nm世代以降では2〜4回の重ね露光で実質的に解像度を倍増させました。この多重露光によるコスト・工程数の増大がEUV導入の主な動機となりました。
液浸露光装置の主なサプライヤーはASML(NXT:2000i/2050i/2100iシリーズ)、Nikon(NSR-S635E等)、Canon(FPA-8300系)の3社です。ASMLがシェア80%超で市場を主導しており、NikonとCanonは一部のノードや特定用途(ディスプレイパネル・MEMS等)で供給しています。液浸露光装置のスループットはウェハ300枚/時間超が一般的で、EUV装置(100〜200枚/時間)より高い生産性を持ちます。
液浸露光に使われるフォトレジストは「KrFレジスト」「ArFドライレジスト」とは異なる「ArFiレジスト(液浸用)」が必要です。純水との接触による溶出・膨潤を防ぐトップコートや、液浸液の回収・管理システムも装置の重要な構成要素です。将来的にはEUVが主導する最先端ノードでも、液浸ArFはコスト効率の高い補完技術として長期間使われ続けると予測されています。