レチクル(Reticle)とは、半導体リソグラフィで使用されるフォトマスクの一種であり、回路パターンをウェハに転写するための「原板」です。石英(SiO₂)基板上にクロム(Cr)または位相シフト材料で回路パターンを描画したもので、露光装置がウェハ上に縮小投影(一般的に4倍縮小、4×レチクル)します。1枚のレチクルには1世代分の配線層パターンが含まれ、先端チップの製造には数十〜百枚以上のレチクルが使われます。
レチクルの製造プロセスは「電子ビーム(EB)描画」→「現像・エッチング」→「検査・修正」→「洗浄」の流れで行われます。EB描画にはNuflare Technology(ニューフレアテクノロジー)やJEOL製のマスク描画装置が使用されており、Nuflareは世界シェア80%超の圧倒的な市場地位を持ちます。描画後の欠陥検査にはLasertec(レーザーテック)のマスク検査装置が使われ、特にEUVマスク向けの「Actinic(実波長)検査機」はLasertecが世界唯一の供給メーカーです。
EUVレチクルはDUVレチクルと根本的に構造が異なります。DUVレチクルが透過型(光を通す)なのに対し、EUVレチクルは反射型で、Mo/Si多層膜ミラー基板上にRu・TaN吸収体パターンが形成されます。また、EUVは大気中の酸素・水分でも吸収されるため、搬送・保管には専用のEUVレチクルポッド(EUVRルクル対応SMIF)が使用されます。EUVレチクルのブランクス製材は信越化学・SKエレクトロニクスが主要サプライヤーです。
OPC(Optical Proximity Correction:光近接効果補正)はレチクルパターン設計の重要技術です。光の回折・干渉により実際の転写パターンが設計値からずれる「光近接効果」を補正するため、レチクル上のパターンをあらかじめ意図的に変形させます。先端ロジックでは数十億個以上のOPC補正点があり、EDA(電子設計自動化)ツールによる高性能計算が必要です。InverseリソグラフィーやAI活用OPCなど新手法の研究も進んでいます。
レチクルの管理・保護も半導体製造の重要課題です。ペリクル(Pellicle)と呼ばれる薄膜保護フィルムをレチクル表面に取り付け、パーティクル付着によるパターン欠陥を防ぎます。DUV用ペリクルは比較的容易に製造できますが、EUV用ペリクルはEUV光の高透過率(90%以上)と耐熱・耐久性の両立が困難で、三井化学・旭化成・ASMLが開発を競っています。