飛程(Rp:Projected Range、投影飛程)とは、加速されたイオンがウェハに入射してから停止するまでに進む深さの平均値です。注入されたドーパントは1点に集まるのではなく、Rpを中心とした分布を作り、その広がりを標準偏差ΔRp(ストラグリング)で表します。イオン注入の深さ方向プロファイルは、この2つのパラメータでおおよそ記述できます。
イオンは固体中で2種類の減速を受けます。標的原子の原子核との衝突による核阻止能(重いイオン・低エネルギーで支配的)と、電子との相互作用による電子阻止能(軽いイオン・高エネルギーで支配的)です。この比率が元素とエネルギーで変わるため、同じ加速エネルギーでもイオン種によってRpは大きく変わります。ボロンは軽く深く入り、ヒ素は重く浅く止まる、という関係です。
この性質が工程設計に直結します。浅い接合を作りたい場合、ボロンではエネルギーを下げても十分に浅くできないため、より重いBF₂⁺として注入して実効的な質量を上げる手法が使われます。逆に深いウェルを作る場合は、MeV級の高エネルギー注入機が必要になります。装置が高電流機・中電流機・高エネルギー機に分かれているのは、この深さとドーズの組合せに対応するためです。
実際の分布はガウス分布から外れます。表面側の裾が長く伸びるチャネリングテールは結晶軸に沿ってイオンが深く侵入することで生じ、これを抑えるためにウェハを7度前後傾けて注入したり、あらかじめ表面をアモルファス化(PAI)したりします。設計段階ではSRIMなどのモンテカルロ計算やプロセスシミュレータでプロファイルを予測します。
なお、注入直後のRpと、アニール後の電気的な接合深さ(Xj)は別物です。熱処理でドーパントが拡散するためXjはRpより深くなり、その拡散量を抑えることが熱バジェット管理の目的になります。プロファイルの実測にはSIMS(二次イオン質量分析)が使われます。