熱バジェット(Thermal Budget)は、半導体製造プロセスにおいて、デバイスが許容できる熱処理量の総量を表す概念です。一般的に「温度×時間の積分値」(∫T dt)または特定温度での等価時間で表現されます。熱バジェットが大きいほどドーパント拡散・原子移動・膜変質が進むため、微細化が進むほど熱バジェットの厳密な管理が不可欠になります。
熱バジェット管理が特に重要になる背景として、①FinFET/GAAではソース/ドレインとゲートの間隔が数nm以下なのでドーパント拡散を極力抑える必要がある、②銅配線の拡散障壁(TaN/Ta)やlow-k層間絶縁膜が高温で劣化する、③3D積層デバイス(3D-NAND、HBM)では既製デバイス上に積層する際に下層へのダメージを防ぐ必要がある、などが挙げられます。
熱バジェット低減のための技術として、①ミリ秒アニール(フラッシュランプアニール・DSA:Dual-Side Anneal)、②マイクロ波アニール、③レーザーアニール(局所加熱でシリコン表面のみ瞬間加熱)が採用されています。これらは従来のファーネス(拡散炉)やランプ式RTPより大幅に短時間で処理することで熱バジェットを削減します。
プロセス設計では「熱バジェットの配分」が重要です。CMOS製造ではゲート絶縁膜形成(高温酸化)→Well形成(イオン注入+アニール)→ソース/ドレイン形成(低熱バジェット)→金属配線(低温)という順序で熱バジェットを段階的に下げるフロー設計が基本です。先端ノードではこの配分の最適化がチップ性能・歩留まりに直結します。
熱バジェット計測には、SIMS(ドーパント拡散プロファイル)、XRD(結晶歪み)、RBS(Rutherford後方散乱:組成・拡散評価)が使われます。プロセスシミュレーター(Synopsys Sentaurus Process、Silvaco ATHENA)では、温度プロファイルと時間から熱バジェットを計算し、ドーパント拡散・欠陥挙動を予測します。