縮退故障モデル(スタックアットフォルト)とは、回路中のある信号線が入力に関係なく論理0または論理1に固定されてしまう、という単純化した故障の想定です。実際の物理的欠陥は配線の断線・短絡・トランジスタの特性劣化など多様ですが、それらを「線が0または1に張り付く」という論理レベルの記述に抽象化することで、テストパターン生成を計算可能な問題に落とし込みます。
このモデルが長く使われてきたのは、抽象度と実用性のバランスが良いためです。故障の種類が信号線1本につき2つ(0縮退・1縮退)に限られるため、大規模回路でも故障リストを列挙でき、ATPGツールが現実的な時間でパターンを探索できます。しかも、縮退故障を検出できるパターンは実際の物理欠陥の多くを副次的に捕まえるという経験則があります。
一方で限界も明確です。縮退故障モデルは時間の概念を持たないため、「動くけれど規定の周波数では間に合わない」というタイミング不良を表現できません。また、2本の配線が短絡して互いに影響し合うブリッジ故障や、リーク電流の増大といった不良も、このモデルの外にあります。
そこで補完的な故障モデルが併用されます。遷移故障モデルは信号の立ち上がり・立ち下がりが遅れる不良を想定し、実速度(At-Speed)テストで検出します。パスディレイ故障モデルはクリティカルパス全体の遅延を対象にします。ブリッジ故障モデルは配線間の短絡を、IDDQテストは静止時電流の異常を捉えます。
微細化が進むにつれ、縮退故障だけでは市場品質を保証できなくなり、遷移故障を含めたマルチモデルのカバレッジ確保が標準になりました。とはいえ縮退故障は今もテスト品質を語る際の共通言語であり、カバレッジといえばまずこのモデルでの数字が示されます。