イットリア溶射コーティングは、酸化イットリウム(Y₂O₃)を溶射などの手法でチャンバー内部品の表面に成膜し、プラズマによる浸食(エロージョン)とパーティクル発生を抑える表面処理技術です。エッチング装置のライナー・シャワーヘッド・ESC表面・リング類など、フッ素系・塩素系プラズマに曝される部品のほぼ全てに適用されます。
Y₂O₃が選ばれる理由は、フッ素ラジカルと反応して生成するYF₃が安定で不揮発性のため、表面が保護膜として働き浸食が進みにくいことにあります。アルミナ(Al₂O₃)が生成するAlF₃に比べて安定性が高く、削られる速度が桁で小さくなるため、部品寿命が延びると同時に、削られた粒子がウェハに落ちるパーティクル欠陥も減ります。
成膜手法は、大気プラズマ溶射(APS)が量産の主流ですが、より緻密で低パーティクルな膜が必要な用途には、サスペンションプラズマ溶射(SPS)やエアロゾルデポジション(AD法)、PVD/ALDによる緻密膜が用いられます。溶射膜は本質的に微小な気孔と割れを含むため、気孔率と界面密着力が寿命とパーティクル性能を決める指標になります。
近年はイットリア単体だけでなく、フッ化イットリウム(YF₃)やイットリウム・オキシフルオライド(YOF)などの含フッ素系被膜が採用されています。プロセス中に生成するフッ化物層と組成を近づけることで、体積変化による割れや粒子の脱落を抑える狙いです。プロセス条件(ガス種・パワー・温度)ごとに最適な被膜が異なるため、装置メーカーと表面処理業者の共同開発が行われます。
この分野は日本企業の存在感が大きく、溶射国内最大手のトーカロをはじめ、複数の表面処理事業者が装置部品の新品コーティングと使用済み部品の再生を担っています。ファブにとっては消耗部品コスト・PM周期・パーティクル歩留まりを同時に動かせるレバーであり、投資対効果の高い領域です。