スリップ(スリップ転位)とは

Slip (Slip Dislocation)

最終更新:2026-09-14ウェハ研磨・面取り装置ウエハ製造装置

スリップ(スリップ転位)とは?

スリップ(スリップ転位)とは、熱処理などでウェハ面内に温度差や応力が生じたとき、結晶のすべり面に沿って転位が動いて生じる欠陥で、(100)ウェハでは互いに直交する直線状の段差として現れます。高温ほど起きやすく、ウェハ外周や支持点が起点になります。リーク電流や重ね合わせ精度の悪化を招き、昇降温条件と支持方法の設計、酸素によるピン止めで抑えます。

定義・解説

スリップ(スリップ転位)とは、熱処理などでシリコンウェハに大きな応力がかかったとき、結晶のすべり面に沿って転位が動き、原子面がずれることで生じる欠陥です。ウェハ表面には、すべり面と表面の交線に沿った直線状の段差として現れ、(100)ウェハでは互いに直交する〈110〉方向の線として観察されます。

原因の多くは熱応力です。ウェハ面内に温度差があると、熱膨張の違いによって内部に応力が生じます。この応力が高温での降伏応力を超えると転位がすべり出し、増殖します。シリコンは高温ほど転位が動きやすくなるため、1,000℃を超える熱処理や、急速に昇降温するRTP・フラッシュランプアニールで発生しやすくなります。

発生しやすい場所は、温度差や応力が集中する箇所です。ウェハの外周部は放熱しやすく中心より温度が変わりやすいため、縁から内側へ向かうスリップが典型です。ほかに、縦型炉のボートやサセプタでウェハを支える接触点、エッジの欠けや傷も起点になります。300mmウェハは自重が大きく支持点にかかる応力も大きいため、支持方法の設計がより重要になりました。

スリップは歩留まりと工程の両方に影響します。デバイス領域に達した転位は接合リークの原因となり、ウェハ全体に広がったスリップはウェハを変形させて、露光工程の重ね合わせ精度を悪化させます。

対策は、応力を小さくすることと、転位を動きにくくすることの2つです。前者には昇降温速度の最適化、ウェハ面内の温度の均一化、支持点の配置や形状の工夫があります。後者では、CZシリコン中の格子間酸素や酸素析出物が転位を固着する(ピン止めする)効果が知られており、酸素をほとんど含まないFZウェハはスリップが起きやすくなります。

図解

刃状転位の断面模式図と、{111}面の積層順序で見た正常・内因性積層欠陥・双晶の比較図。
刃状転位は余分な原子面の端、積層欠陥と双晶は{111}面の積み重なり方の乱れとして理解できる

スリップが起きる条件:熱応力の大きさ

ウェハ面内に温度差 ΔT があると、熱膨張の差によって応力 σ が生じます。拘束された板の概算として次の式が使えます。

σ ≈ E · α · ΔT

シリコンのヤング率 E を約150 GPa、高温での熱膨張係数 α を約4×10⁻⁶ /K とすると、 ΔT = 10 K でも σ ≈ 6 MPa になります(概算)。 高温のシリコンは転位が動き出す応力が大きく下がるため、ウェハ面内のわずか数℃〜十数℃の温度差でもスリップの原因になり得ます。 温度が高いほど、また昇降温が速いほど条件は厳しくなります。

発生しやすい場所と対策

発生箇所原因主な対策
ウェハ外周外周からの放熱で中心との温度差が生じる昇降温速度を下げる、外周側の加熱を補正する
支持点(ボート・リフトピン・サセプタ)自重による応力の集中支持点の数と位置の最適化、リング状の支持
エッジの欠け・傷応力の集中と転位の起点エッジの面取り・研磨、搬送時の接触管理
急速昇降温(RTP・FLA)表裏や面内の急な温度差予熱温度の設定、ランプ出力の面内分布の制御

エッジの形状はウェハベベル、急速熱処理の条件はRTPフラッシュランプアニールの解説も参照してください。 スリップが広がったウェハは変形し、反りとして露光工程の重ね合わせ精度に影響します。

酸素が転位を止める

CZ シリコンに含まれる格子間酸素は、転位の周りに集まって転位を固着し、動きにくくします。 酸素をほとんど含まない FZ ウェハがスリップに弱いのはこのためです。 微小な酸素析出物も転位の動きを妨げますが、析出物が大きく育ちすぎると、 それ自体が周囲に転位を生む起点になり、かえってウェハの強度を下げます。 酸素濃度と析出の状態は、ゲッタリングだけでなく機械的な強さの面からも設計されます。

あわせて読みたい

転位とは →酸素析出物(BMD)とは →急速熱処理(RTP)とは →

よくある質問(FAQ)

スリップはなぜ直線状に見えるのですか?
転位がシリコンの{111}面というすべり面の上だけを動くためです。すべり面とウェハ表面が交わる線に沿って原子面の段差ができるので、(100)ウェハでは互いに直交する〈110〉方向の直線として現れます。ウェハの外周から内側に向かう、平行な線の束として観察されるのが典型です。
スリップはどんな工程で発生しますか?
高温でウェハ面内に温度差が生じる工程です。代表的なのは1,000℃を超える拡散炉での熱処理、急速に昇降温するRTPやフラッシュランプアニール、エピタキシャル成長です。ウェハを支えるボートやサセプタの接触点、エッジの欠けも、応力が集中するため起点になりやすい場所です。
スリップを防ぐにはどうすればよいですか?
応力を小さくする工夫と、転位を動きにくくする工夫を組み合わせます。前者には昇降温速度の最適化、ウェハ面内の温度の均一化、支持点の配置の工夫があり、後者にはCZシリコン中の酸素による転位のピン止め効果の活用があります。酸素をほとんど含まないFZウェハはスリップが起きやすいため、熱処理条件により注意が必要です。

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