スリップ(スリップ転位)とは、熱処理などでシリコンウェハに大きな応力がかかったとき、結晶のすべり面に沿って転位が動き、原子面がずれることで生じる欠陥です。ウェハ表面には、すべり面と表面の交線に沿った直線状の段差として現れ、(100)ウェハでは互いに直交する〈110〉方向の線として観察されます。
原因の多くは熱応力です。ウェハ面内に温度差があると、熱膨張の違いによって内部に応力が生じます。この応力が高温での降伏応力を超えると転位がすべり出し、増殖します。シリコンは高温ほど転位が動きやすくなるため、1,000℃を超える熱処理や、急速に昇降温するRTP・フラッシュランプアニールで発生しやすくなります。
発生しやすい場所は、温度差や応力が集中する箇所です。ウェハの外周部は放熱しやすく中心より温度が変わりやすいため、縁から内側へ向かうスリップが典型です。ほかに、縦型炉のボートやサセプタでウェハを支える接触点、エッジの欠けや傷も起点になります。300mmウェハは自重が大きく支持点にかかる応力も大きいため、支持方法の設計がより重要になりました。
スリップは歩留まりと工程の両方に影響します。デバイス領域に達した転位は接合リークの原因となり、ウェハ全体に広がったスリップはウェハを変形させて、露光工程の重ね合わせ精度を悪化させます。
対策は、応力を小さくすることと、転位を動きにくくすることの2つです。前者には昇降温速度の最適化、ウェハ面内の温度の均一化、支持点の配置や形状の工夫があります。後者では、CZシリコン中の格子間酸素や酸素析出物が転位を固着する(ピン止めする)効果が知られており、酸素をほとんど含まないFZウェハはスリップが起きやすくなります。