キャリア散乱とは、半導体の中を動く電子や正孔が、結晶の原子の振動や不純物などにぶつかって、進む向きや速さを変えられる現象です。散乱が多いほどキャリアは動きにくくなり、移動度が下がって電気が流れにくくなります。主な散乱には、結晶の格子の振動(フォノン)による格子散乱と、イオン化した不純物の電荷による不純物散乱があります。
格子散乱は、温度が高くなるほど格子の振動が激しくなって強まり、移動度はおおむね温度の−3/2乗に比例して下がります。不純物散乱は、不純物の濃度が高いほど強く、温度が低いほどキャリアの速度が遅く電荷の影響を受けやすいため強まります。そのため、不純物の少ない結晶では高温で格子散乱が、不純物の多い結晶では低温で不純物散乱が主になります。
複数の散乱が同時に働くとき、全体の移動度の逆数は、それぞれの散乱による移動度の逆数の和になります(マティーセンの規則)。MOSFETのチャネルでは、これに加えて、ゲート絶縁膜との界面の凹凸による表面ラフネス散乱や、High-k膜の分極によるリモートフォノン散乱も効きます。微細なトランジスタでは、散乱する前にキャリアが通り抜けるバリスティックな伝導に近づいていきます。