るつぼとは、物質を高温で溶かすための耐熱容器で、半導体分野ではCZ法でシリコンを約1,414℃で溶かしておく石英ガラス製の容器を指します。内面が融液にわずかに溶け出すため、CZシリコンに10〜18ppma程度の酸素が入る原因にもなっています。内面の気泡や剥離片は結晶の有転位化を招くため、合成石英の透明な内層を持つ2層構造が使われ、原則1回の育成ごとに交換される消耗品です。
目次 7項目 定義・解説 図解 よくある質問 設備の製造メーカー 関連用語 比較・違いを学ぶ 出典・参考資料 定義・解説 るつぼ(坩堝、ルツボ)とは、物質を高温で溶かしたり加熱したりするための耐熱容器です。一般には金属の溶解や化学分析に使われる器具を指しますが、半導体分野では主に、シリコン単結晶を引き上げるチョクラルスキー法(CZ法)で多結晶シリコンを溶かしておく石英ガラス製のるつぼを指します。
CZ法では、高純度の多結晶シリコンを石英るつぼに充填し、周囲のヒーターで融点(約1,414℃)を超えるまで加熱して融液にします。そこへ種結晶を浸し、るつぼと結晶を互いに逆方向へ回転させながらゆっくり引き上げることで、単結晶インゴットを成長させます。高温の石英は粘性が下がって変形しやすくなるため、るつぼは外側から黒鉛製のサセプタで支えられています。300mmウェハ用の結晶では、口径32インチ(約800mm)級の大型るつぼに数百kgのシリコンを溶かします。
石英がるつぼ材として選ばれるのは、高純度化が可能で、シリコン融液に対して比較的安定だからです。ただし完全に不活性ではなく、融液と接する内面は Si + SiO₂ → 2SiO の反応でゆっくり溶け出します。生じたSiOの大部分は融液表面から蒸発しますが、一部の酸素は結晶に取り込まれ、格子間酸素として残ります。CZシリコンが10〜18ppma程度の酸素を含むのはこのためで、るつぼを使わないFZ法の結晶にはほとんど酸素が含まれません。
るつぼの品質は、結晶の歩留まりを直接左右します。内面の気泡が破れたり、表面の失透(クリストバライト化)した部分が剥がれたりすると、その微粒子が成長界面に到達して結晶に転位が入り、単結晶として使えなくなります(有転位化)。このため、外側を気泡を含む不透明層、融液に触れる内側を気泡のない透明層とした2層構造とし、内層に高純度の合成石英を用いたるつぼが使われています。
るつぼは基本的に消耗品です。引き上げ後に冷却すると、残ったシリコンが凝固時に膨張することや石英の結晶化によって割れるため、原則として1回の育成ごとに交換されます。1本のるつぼからより多くの結晶を得るため、引き上げ後に原料を追加するリチャージ技術も使われています。シリコン以外では、GaAsなど化合物半導体の結晶成長にpBN(熱分解窒化ホウ素)製、SiCの昇華法(PVT法)に黒鉛製のるつぼが使われ、材料ごとに融液や蒸気と反応しにくい材質が選ばれます。
図解 石英るつぼは融液を保持すると同時に酸素の供給源でもある ─ 気泡のない内層が有転位化を防ぐ CZ シリコンに含まれる酸素の出どころは、石英るつぼそのものです。融液に接するるつぼの内面では、次の反応がゆっくり進みます。
SiO₂(るつぼ) + Si(融液) → 2SiO
溶け出した酸素は融液の対流に乗って運ばれ、大部分は融液の自由表面から SiO ガスとして蒸発します。 炉内に上から流すアルゴンガスは、この SiO を排気へ運び去る役割を持ちます。 SiO が炉内の低温部で凝縮して粉になり、融液に落ちると結晶の有転位化を招くためです。 蒸発しきらずに成長界面へ届いた酸素の一部が結晶に取り込まれ、格子間酸素 になります。
結晶中の酸素濃度は、次のような条件で動きます。
条件 酸素濃度への影響 理由 るつぼの回転速度 速くすると増える るつぼ内面近くの境界層が薄くなり、溶出が進む 融液の量(育成の進み具合) 育成の前半ほど多い 融液とるつぼの接触面積が大きく、溶出源が広い 磁場の印加(MCZ法) 横磁場をかけると減る 融液の対流が抑えられ、溶出した酸素が成長界面へ運ばれにくくなる 炉内圧力・アルゴン流量 圧力が高い・流量が少ないと増える 融液表面からの SiO の蒸発が妨げられる
酸素は「少ないほどよい」わけではありません。適度な酸素はゲッタリングやウェハの強度に役立つため、用途ごとに狙いの濃度が決められます。
るつぼの中の不純物は、インゴットの後ろほど濃くなる 結晶が固まるとき、ドーパントは融液側に残りやすい性質を持ちます。結晶に取り込まれる濃度と融液中の濃度の比を偏析係数 k と呼び、 シリコン中のボロンで約0.8、リンで約0.35です。k が1より小さい不純物は育成が進むほど融液に濃縮されるため、 るつぼに仕込んだ原料から引き上げ続ける限り、インゴットの後ろ(尾部)ほどドーパント濃度が高くなります。
Cs = k · C0 · (1 − g)k − 1
C0 は仕込み時の融液中の濃度、g は固化率(融液のうち結晶になった割合)です。 結晶の頭(g = 0)を1としたときの相対濃度は次のとおりです。
固化率 g ボロン(k ≈ 0.8) リン(k ≈ 0.35) 0(種結晶側) 1.00 1.00 0.5 1.15 1.57 0.8 1.38 2.85 0.9(尾部側) 1.58 4.47
リンをドープした n 型結晶では、固化率 0.8 の位置でドーパント濃度が頭の約2.9倍になり、抵抗率 はおおよそその逆数まで下がります。 ボロンの p 型結晶に比べて、抵抗率の仕様に収まる長さが短くなりやすいのはこのためです。 導電率がキャリア濃度に比例するという電気伝導 の基本式が、 るつぼの中の物質収支を通じて結晶の歩留まりにつながっています。引き上げ後に原料を足すリチャージは、この濃縮を仕切り直す手段でもあります。
融液が完全に混合されると仮定した式(シャイルの式)です。実際の偏析係数は引き上げ速度や融液の流れによって変わります。
内面の気泡 石英ガラス中の気泡は、高温・減圧の炉内で膨張し、融液側に破れると石英の微小な破片を放出します。 この破片が成長界面に達すると結晶に転位が入り、以降の部分は単結晶として使えなくなります。 融液に接する内層を気泡のない透明層にするのは、この不良を防ぐためです。
失透と剥離 長時間の高温にさらされた石英の内面では、ガラスが部分的に結晶(クリストバライト)に変わる失透が起こります。 茶色の斑点として現れ、これが剥がれて融液に落ちると、やはり有転位化の原因になります。 内面をむしろ均一に結晶化させて剥がれにくくするため、結晶化を促す成分(バリウムなど)を内面に塗布したるつぼも使われています。
変形 石英は高温で粘性が下がり、自重と融液の重さで変形しやすくなります。黒鉛製のサセプタで外側から支えるのはこのためで、 育成時間が長くなるほど変形への耐性が問われます。
るつぼの材質は、溶かす材料と反応しにくく、不純物を持ち込まないことを基準に選ばれます。 金属汚染を嫌う点では、拡散炉などで使われる石英部品 と同じ考え方です。
用途 るつぼの材質 選ばれる理由 シリコン単結晶(CZ法) 石英ガラス+黒鉛サセプタ 高純度化でき、Si 融液と比較的反応しにくい。ただし酸素の供給源になる GaAs・InP(LEC法・VGF法) pBN(熱分解窒化ホウ素) 高純度で融液に濡れにくく、不純物を持ち込みにくい SiC(PVT法・昇華法) 黒鉛 2,000℃を超える温度に耐え、原料の炭素とも両立する 真空蒸着の蒸発源 W・Mo・黒鉛・BN・アルミナなど 蒸着する材料と合金化・反応しない組み合わせを選ぶ
SiC のPVT法 では、黒鉛るつぼの中で原料粉末を昇華させ、上部の種結晶 に再結晶させます。 融液を保持する容器というより、昇華と再結晶の温度差を作る反応容器としての役割が大きい点が、CZ法のるつぼとの違いです。 反対にFZ法 はるつぼを使わずに溶融帯を移動させる方式で、酸素をほとんど含まない結晶が得られます。
よくある質問(FAQ) るつぼは何でできていますか? 用途によって材質が異なります。シリコン単結晶のCZ法では高純度の石英ガラス、GaAsなど化合物半導体の結晶成長ではpBN(熱分解窒化ホウ素)、SiCの昇華法では黒鉛が使われます。いずれも、溶かす材料と反応しにくく、不純物を持ち込みにくい材質が選ばれます。
なぜCZ法のシリコンウェハには酸素が含まれるのですか? 石英るつぼの内面がシリコン融液とわずかに反応して溶け出すためです。溶け込んだ酸素の大部分は融液表面からSiOとして蒸発しますが、一部が結晶に取り込まれます。この酸素はゲッタリングやウェハの機械的強度に役立つ一方、デバイスによっては悪影響もあるため、るつぼの回転速度や磁場の印加(MCZ法)で濃度が制御されます。
るつぼは再利用できますか? CZ法の石英るつぼは、原則として1回の結晶育成ごとに交換されます。冷却時に残ったシリコンが凝固して膨張することや、高温で結晶化した石英との熱膨張差によって割れてしまうためです。コストを抑えるため、引き上げ後に原料を追加して同じるつぼで複数本を育成するリチャージ技術が使われています。
「人種のるつぼ」の「るつぼ」と同じものですか? 同じものです。「人種のるつぼ」は、さまざまな金属がるつぼの中で溶け合って1つになる様子を、多様な人々が混ざり合う社会にたとえた比喩表現です。半導体分野でいうるつぼは、この比喩のもとになった実物の耐熱容器のことです。
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