ラジカルとは、不対電子を持つ中性の原子・分子で、化学的に非常に反応しやすい粒子です。半導体製造ではプラズマ中でガスが分解されてできるF・O・Clなどを指し、低圧プラズマではイオンより1〜数桁多く存在します。イオンが垂直に打ち込まれて加工の「方向」を担うのに対し、ラジカルは化学反応の「量」を担い、両者の相乗効果で異方性エッチングが成り立ちます。
目次 7項目 定義・解説 図解 よくある質問 設備の製造メーカー 関連用語 比較・違いを学ぶ 出典・参考資料 定義・解説 ラジカル(フリーラジカル)とは、不対電子(対になっていない電子)を持つ原子や分子のことです。電荷を持たない中性の粒子でありながら、化学的に非常に反応しやすいという性質を持ちます。半導体製造では、プラズマの中で原料ガスが電子の衝突によって分解されてできるF(フッ素原子)・O(酸素原子)・Cl(塩素原子)・SiH₃などを指し、ドライエッチング・アッシング・プラズマCVD・チャンバークリーニングの化学反応を担う主役です。
プラズマ中の粒子は、大きく電子・イオン・ラジカル・未分解の原料ガスに分けられます。一般的なプロセス用の低圧プラズマでは、電離しているのはガス分子のごく一部(10⁻⁶〜10⁻³程度)にすぎず、中性のラジカルはイオンより1〜数桁多く存在するのが一般的です。ウェハ表面に届く反応種の量で見ればラジカルが圧倒的で、イオンは量こそ少ないものの、シース電界で加速されて垂直に入射するという別の役割を持っています。
ドライエッチングでは、この2つの役割分担が加工形状を決めます。ラジカルは中性なので電界の影響を受けず、あらゆる方向からランダムに表面へ到達します。そのためラジカルだけで削ると、横方向にも同じように進む等方性エッチングになります。一方、イオンの衝撃が当たる底面ではラジカルとの反応が大きく加速されます。この相乗効果によって底面だけが速く削れ、異方性エッチングが成り立ちます。側壁には保護膜を堆積させ、ラジカルによる横方向の侵食を防ぐのが定石です。
エッチング以外の工程でもラジカルは中心的な役割を果たします。アッシングでは酸素ラジカルがフォトレジストを燃焼させてCO₂とH₂Oに分解し、チャンバークリーニングではNF₃をリモートプラズマ源で分解したフッ素ラジカルが壁面の堆積膜を除去します。プラズマCVDではSiH₄から生じたSiH₃ラジカルが膜の前駆体となり、プラズマALDでは酸素・窒素・水素のラジカルが低温での反応剤として使われます。イオン衝撃を避けたい工程では、プラズマの生成部とウェハを離してラジカルだけを届けるダウンストリーム方式が選ばれます。
ラジカルを扱ううえでの課題は、寿命の短さと制御の難しさです。ラジカルは壁面や気相で再結合して元の分子に戻りやすく、輸送経路の材質や距離によってウェハに届く量が大きく変わります。密度を直接測ることも難しいため、発光分光(OES)でAr等の基準となる発光線との強度比から相対密度を推定するアクチノメトリ法などが用いられます。先端プロセスでは、ラジカルの吸着とイオンによる除去を時間的に分けて原子層単位で削る原子層エッチング(ALE)も実用化されています。
図解 ラジカルは反応の「量」、イオンは「方向」を担う ─ 両者の相乗効果で異方性エッチングが成り立つ プラズマの中には電子・イオン・ラジカル・分解されていない原料ガスが混在しています。 このうちウェハの加工を直接担うのがイオンとラジカルで、両者は性質も役割もまったく異なります。
項目 ラジカル イオン 電荷 なし(中性) あり(主に正イオン) 表面への届き方 あらゆる方向からランダムに届く シース電界で加速され、ほぼ垂直に入射する 表面に届くときのエネルギー 熱運動程度(0.1 eV 未満) 数十 eV〜1 keV 程度(バイアス電力で調整) プラズマ中の量 多い(イオンより1〜数桁多いのが一般的) 少ない(電離しているのはガスの10⁻⁶〜10⁻³程度) 担う役割 化学反応の原料を供給する 反応を加速し、方向性を与える 主な制御のつまみ ガス種・流量・圧力・プラズマ密度 ウェハ側のバイアス電力と周波数
数値は一般的な低圧プロセスプラズマの目安で、方式(CCP /ICP )や条件によって変わります。
ガス分子に電子が衝突すると、分子が壊れるだけの反応(解離)と、電子まで剥ぎ取られる反応(電離)が起こります。
e⁻ + CF₄ → CF₃ + F + e⁻ (解離:ラジカルができる)
e⁻ + CF₄ → CF₃⁺ + F + 2e⁻ (解離性電離:イオンができる)
ラジカルが多くなる理由は2つあります。1つは、解離に必要なエネルギーが電離より低く、 プラズマ中の電子の多くは電離を起こすほどのエネルギーを持たないことです。 もう1つは失われ方の違いです。イオンはシースに引き込まれて壁やウェハに次々と衝突し、そこで電荷を失います。 ラジカルは壁に当たっても毎回再結合するわけではなく、跳ね返って気相に戻るものが多いため、長く生き残ります。
CF₄ に O₂ を十数%加えると Si のエッチ速度が上がるのも、ラジカルの量で説明できます。 酸素が CFₓ と反応して CO・CO₂・COF₂ として持ち去るため、フッ素原子が CFₓ と再結合しにくくなり、F の密度が上がるからです。 ただし加えすぎると、今度は酸素が Si 表面を覆って反応を妨げ、エッチ速度は下がります。
ラジカルとイオンを同時に当てると、別々に当てた場合の足し算をはるかに上回る速さで削れます。 1979年の Coburn と Winters の実験では、シリコンに XeF₂ ガス(F の供給源)だけ、あるいは Ar⁺ イオンビームだけを当てた場合に比べ、 両方を同時に当てるとエッチ速度がおよそ10倍になりました。 イオンの衝撃が表面の結合を壊して反応しやすくし、反応生成物(SiFₓ)の脱離も助けるためです。
この相乗効果が、微細パターンを垂直に加工できる理由です。パターンの底面にはイオンが垂直に降り注ぐので反応が加速されますが、 側壁にはイオンがほとんど当たらず、ラジカルだけの遅い反応しか起きません。ドライエッチング の異方性は、「どこにイオンが当たるか」で反応速度に差をつけることで作られています。
側壁保護膜で横方向を止める ラジカルだけの反応でも、時間をかければ側壁は削れていきます。そこで実際のプロセスでは、 フルオロカーボン系ガスから生じる CFₓ のポリマーや、HBr/O₂ 系で生じる酸化物系の膜を側壁に堆積させ、ラジカルの侵食を防ぎます。 底面の保護膜はイオン衝撃で取り除かれるため、底だけが削れ続けます。DRIE のボッシュプロセスは、SF₆ のフッ素ラジカルによるエッチングと C₄F₈ による保護膜の堆積を数秒周期で交互に繰り返し、 この考え方を極端に推し進めたものです。
保護膜が厚すぎればパターンの底が細って先すぼまりになり、薄すぎれば側壁がえぐれます。 ラジカルとイオンの量の比は、形状と選択比 を同時に決める重要なパラメータです。
原料ガス 主なラジカル 使われる工程 押さえどころ CF₄・C₄F₈・CHF₃ F、CFₓ SiO₂・SiN のエッチング CFₓ が作るポリマー膜が側壁保護と選択比を決める SF₆・NF₃ F Si のエッチング(DRIE)、チャンバークリーニング Si とは自発的に反応するため、放置すると等方的に削れる Cl₂・HBr Cl、Br ポリシリコン・メタルゲートのエッチング ノンドープ Si との自発反応が遅く、異方性を出しやすい O₂ O アッシング、ポリマー残渣の除去 Low-k 膜の炭素を引き抜き、誘電率を上げてしまう H₂・NH₃ H、NHₓ 自然酸化膜の除去、プラズマALDの窒化 金属表面で再結合しやすく、届く量が輸送経路に左右される SiH₄ SiH₃ プラズマCVD による SiO₂・SiN・a-Si の成膜 SiH₃ は表面での反応確率が低く、段差被覆のよい膜になる
エッチング以外にも、アッシング では酸素ラジカル、リモートプラズマ源 によるクリーニングではフッ素ラジカル、PECVD では SiH₃ ラジカルが主役です。いずれもイオンの衝撃が不要か、むしろ避けたい工程です。
壁面での再結合 ラジカルが失われる主な場所は壁面です。壁に当たったラジカルが再結合する確率は表面の材質で大きく異なり、 一般に石英のような酸化物の表面では小さく、金属の表面では大きくなります。 リモートプラズマ源からチャンバーまでの輸送管の材質や長さが処理速度に効くのはこのためです。
チャンバー壁の状態 壁に堆積物が付いているかどうかでも、再結合の起こりやすさは変わります。 クリーニング直後の最初の数枚だけエッチ速度がずれる「ファーストウェハ効果」の一因がこれで、 量産ではダミーウェハを流して壁の状態を安定させるシーズニングを行います。
発光分光で量を見積もる ラジカルの密度を直接測るのは難しいため、プラズマの発光を利用します。微量の Ar を混ぜ、 F 原子の発光線(703.7 nm)と Ar の発光線(750.4 nm)の強度比を取ると、電子の状態の変化による影響が打ち消され、 F の相対的な密度の変化を追えます。アクチノメトリ法と呼ばれる手法で、エンドポイント検出 と同じ発光分光器が使われます。
[F] ∝ [Ar] × I(F 703.7 nm) / I(Ar 750.4 nm)
よくある質問(FAQ) ラジカルとイオンの違いは何ですか? ラジカルは電荷を持たない中性の粒子で、イオンは電子を失って(または得て)電荷を持った粒子です。ラジカルは電界の影響を受けずランダムな方向から表面に届き、化学反応を担います。イオンはプラズマとウェハの間のシース電界で加速され、ほぼ垂直に表面へ衝突します。エッチングでは、イオンが方向性を、ラジカルが反応の量を受け持つ役割分担になっています。
ラジカルだけでエッチングするとどうなりますか? 横方向にも同じ速さで削れる等方性エッチングになり、マスクの下にえぐれ(アンダーカット)が生じます。微細なパターンを垂直に加工できないため、先端の加工には向きません。一方で下地へのダメージが小さいため、アッシングや表面処理、等方的に除去したい膜のエッチングには、あえてラジカル主体の方式が使われます。
「ラジカル」の一般的な意味とはどう違いますか? 日常語や政治の文脈では「急進的な」「根本的な」という意味で使われますが、化学・半導体の分野では不対電子を持つ反応性の高い原子・分子を指します。どちらも語源はラテン語で「根」を意味する radix です。化学ではもともと分子の中でひとまとまりに振る舞う原子団(基)を指した言葉で、そこから現在の意味になりました。
リモートプラズマでラジカルだけを使うのはなぜですか? イオンや紫外線によるウェハやデバイスへのダメージを避けるためです。プラズマを生成する部屋と処理室を離すと、イオンは輸送の途中で壁に当たって失われ、比較的長く生き残るラジカルが処理室に届きます。レジストのアッシング、自然酸化膜の除去、チャンバークリーニングなど、化学反応だけで済む工程で使われます。
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