ラジカル(フリーラジカル)とは、不対電子(対になっていない電子)を持つ原子や分子のことです。電荷を持たない中性の粒子でありながら、化学的に非常に反応しやすいという性質を持ちます。半導体製造では、プラズマの中で原料ガスが電子の衝突によって分解されてできるF(フッ素原子)・O(酸素原子)・Cl(塩素原子)・SiH₃などを指し、ドライエッチング・アッシング・プラズマCVD・チャンバークリーニングの化学反応を担う主役です。
プラズマ中の粒子は、大きく電子・イオン・ラジカル・未分解の原料ガスに分けられます。一般的なプロセス用の低圧プラズマでは、電離しているのはガス分子のごく一部(10⁻⁶〜10⁻³程度)にすぎず、中性のラジカルはイオンより1〜数桁多く存在するのが一般的です。ウェハ表面に届く反応種の量で見ればラジカルが圧倒的で、イオンは量こそ少ないものの、シース電界で加速されて垂直に入射するという別の役割を持っています。
ドライエッチングでは、この2つの役割分担が加工形状を決めます。ラジカルは中性なので電界の影響を受けず、あらゆる方向からランダムに表面へ到達します。そのためラジカルだけで削ると、横方向にも同じように進む等方性エッチングになります。一方、イオンの衝撃が当たる底面ではラジカルとの反応が大きく加速されます。この相乗効果によって底面だけが速く削れ、異方性エッチングが成り立ちます。側壁には保護膜を堆積させ、ラジカルによる横方向の侵食を防ぐのが定石です。
エッチング以外の工程でもラジカルは中心的な役割を果たします。アッシングでは酸素ラジカルがフォトレジストを燃焼させてCO₂とH₂Oに分解し、チャンバークリーニングではNF₃をリモートプラズマ源で分解したフッ素ラジカルが壁面の堆積膜を除去します。プラズマCVDではSiH₄から生じたSiH₃ラジカルが膜の前駆体となり、プラズマALDでは酸素・窒素・水素のラジカルが低温での反応剤として使われます。イオン衝撃を避けたい工程では、プラズマの生成部とウェハを離してラジカルだけを届けるダウンストリーム方式が選ばれます。
ラジカルを扱ううえでの課題は、寿命の短さと制御の難しさです。ラジカルは壁面や気相で再結合して元の分子に戻りやすく、輸送経路の材質や距離によってウェハに届く量が大きく変わります。密度を直接測ることも難しいため、発光分光(OES)でAr等の基準となる発光線との強度比から相対密度を推定するアクチノメトリ法などが用いられます。先端プロセスでは、ラジカルの吸着とイオンによる除去を時間的に分けて原子層単位で削る原子層エッチング(ALE)も実用化されています。