化学シフトとは、同じ元素でも、どの元素とどのように結びついているか(化学状態)によって、測定で得られるエネルギーの値がわずかにずれる現象です。半導体の分析では、主にX線光電子分光法(XPS)で、元素の酸化の状態や結合の相手を調べるのに使われます。
XPSは、試料にX線を当てて表面から飛び出してくる電子(光電子)のエネルギーを測り、元の原子の中で電子がどれだけ強く束縛されていたか(結合エネルギー)を求める方法です。原子が酸素などの電子を引き付けやすい元素と結びつくと、内側の電子がより強く束縛され、結合エネルギーが高い側にずれます。たとえばシリコンの2p電子は、純粋なシリコンでは約99eV、二酸化ケイ素(SiO2)では約103eVに現れ、約4eVずれます。その間に現れる小さな山は、酸化が中途半端な状態(亜酸化物)を表します。
XPSは表面から数nmの深さの情報を得られるため、自然酸化膜の厚さや組成、ゲート絶縁膜とシリコンの界面の状態、high-k膜の中の結合、洗浄やエッチングの後の表面の汚れや残渣の分析に使われます。アルゴンイオンで表面を少しずつ削りながら測ると、深さ方向の分布も分かります。なお、核磁気共鳴(NMR)でも化学シフトという言葉が使われますが、こちらは原子核の共鳴の周波数のずれを指す別の概念です。