PBTI(Positive Bias Temperature Instability:正バイアス温度不安定性)とは、主にnMOSトランジスタのゲートに正の電圧をかけたまま、高い温度で長い時間使い続けると、しきい値電圧が少しずつ上がり、流れる電流が減っていく劣化の現象です。pMOSで負の電圧をかけたときに起こるNBTIと対になる現象で、まとめてBTI(バイアス温度不安定性)と呼ばれます。
シリコン酸化膜のゲート絶縁膜を使っていた時代には、PBTIはほとんど問題になりませんでした。しかし、45nm世代のころからゲート絶縁膜に酸化ハフニウムなどのHigh-k膜が使われるようになると、nMOSでも大きな劣化が見られるようになりました。High-k膜の中には電子を捕まえる欠陥(トラップ)が多く、ゲートに正の電圧をかけると、チャネルの電子が絶縁膜の中のトラップに捕まります。捕まった電子が負の電荷として働くため、トランジスタをオンにするのにより高い電圧が必要になります。
BTIの劣化は、電圧を外すと一部が元に戻る(回復する)性質があり、測定のタイミングで結果が変わるため、評価には注意が必要です。対策として、High-k膜の成膜や熱処理の条件を工夫して欠陥を減らすこと、ゲートの金属や界面の層の材料を最適化することが行われています。回路の設計では、製品の寿命の間にしきい値電圧がどれだけずれるかを見込んで、動作の余裕を確保します。SiCのMOSFETでも、ゲート酸化膜の界面の欠陥によるしきい値電圧の変動が重要な課題です。