TED(Transient Enhanced Diffusion:過渡増速拡散)とは、イオン注入の後の熱処理の初期に、注入した不純物(特にボロン)が、ふつうの拡散の速さよりはるかに速く、一時的に深くまで広がってしまう現象です。「過渡」は熱処理を始めてからしばらくの間だけ起こること、「増速」は拡散が速まることを表します。浅い接合を作りたい微細なトランジスタでは、狙った深さより不純物が深く広がるため、大きな問題になります。
原因は、イオン注入で結晶に生じた欠陥です。イオンがシリコンの原子をはじき飛ばすと、本来の位置からずれた原子(格子間シリコン)が大量にできます。熱処理を始めると、これらの格子間シリコンがボロンの原子と組になって動き回り、ボロンの拡散を数桁も速めます。余分な格子間シリコンは、時間とともに{311}欠陥などの集まりを経て消えていくため、増速は一時的です。
TEDを抑えるには、拡散が進む前に短時間で熱処理を終えることが基本で、温度を一瞬だけ上げるスパイクアニールや、ミリ秒以下で表面だけを加熱するフラッシュランプアニール・レーザーアニールが使われます。ほかに、注入の前に結晶をアモルファスにしておくPAI(プリアモルファス化注入)、格子間シリコンを捕まえる炭素を一緒に注入する方法、ウェハを冷やして欠陥のでき方を変えるクライオ注入などの対策があります。