遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)とは、モリブデンやタングステンなどの遷移金属(M)1つに、硫黄・セレン・テルルなどのカルコゲン元素(X)2つが結びついた、MX2という組成の層状の材料です。代表例は二硫化モリブデン(MoS2)、二硫化タングステン(WS2)、二セレン化タングステン(WSe2)です。原子3つ分の厚さ(約0.6〜0.7nm)のシートが弱い力で重なった構造で、1層だけをはがしても安定に存在する二次元材料の一種です。
TMDが注目されるのは、グラフェンと違ってバンドギャップを持つ半導体だからです。MoS2の単層では約1.8eVの直接遷移型のバンドギャップがあり、トランジスタとしてはっきりオフにできます。シリコンはチャネルを数nmより薄くすると、表面の凹凸の影響で電子が動きにくくなりますが、TMDはもともと原子数層の厚さで表面に結合の手が余らないため、極薄でも性能を保ちやすいとされます。そのため、GAAやCFETのさらに先の世代で、ナノシートのチャネルをシリコンから置き換える候補として、imec、TSMC、Intelなどが研究しています。
実用化の課題は、300mmウェハ全面に欠陥の少ない単結晶の膜を均一に作ること、金属電極との接触抵抗を下げること、ゲート絶縁膜をきれいに載せること、そしてn型とp型の両方で高い性能を出すことです。成膜には、MOCVDなどの気相成長や、金属膜を硫化・セレン化する方法が検討されています。