フッ化水素(HF)とは、フッ素と水素の化合物で、半導体製造では水溶液のフッ化水素酸(フッ酸)と、無水のフッ化水素ガスの2つの形で使われます。シリコン酸化膜(SiO₂)を溶かす性質を持つため、ウェハ表面の自然酸化膜の除去や洗浄、酸化膜のウェットエッチングに欠かせない薬品です。半導体向けには金属不純物をppt(1兆分の1)レベルまで除いた超高純度品が求められます。
半導体工程での主な用途は次のとおりです。(1)DHF洗浄:希釈したフッ酸で自然酸化膜と表面の金属汚染を取り除く、RCA洗浄の一工程です。(2)BHF(バッファードフッ酸)によるウェットエッチング:フッ化アンモニウムを加えてエッチング速度を安定させ、酸化膜を加工します。(3)気相エッチング:無水HFガスで酸化膜を除去し、MEMSの犠牲層除去などに使われます。また、エッチングやクリーニングに使う各種フッ素系ガスの原料にもなっています。
高純度フッ化水素は日本企業が強い材料の一つで、ステラケミファや森田化学工業などが世界の半導体向けの主要な供給元です。原料は蛍石(フッ化カルシウム)で、その多くを中国から輸入しているため、原料の調達にも地政学的なリスクがあります。高純度化には蒸留などの精製を繰り返す必要があり、品質を安定させるノウハウが参入障壁になっています。
フッ化水素は経済安全保障の文脈でも知られるようになりました。2019年7月、日本は韓国向けのフッ化ポリイミド・レジスト・フッ化水素の3品目について輸出管理の運用を厳格化し、韓国の半導体メーカーは調達先の多様化と国産化を急ぎました。この措置は2023年に解除されましたが、特定の国に依存した材料の供給がいかに脆弱かを示した事例として、各国のサプライチェーン政策で繰り返し参照されています。