リン(Phosphorus、元素記号P)は原子番号15の15族(5族)元素で、シリコンに加えるとn型半導体を作るドナーとして働く、代表的なn型ドーパントです。シリコン原子の位置に入ったリンは、結合に使われない電子が1個余り、室温ではこの電子がほぼすべて自由に動けるようになって電流を運びます。
リンの導入には、イオン注入、熱拡散、in-situドーピングが使われます。イオン注入ではPH₃(ホスフィン)ガスなどからリンイオンを作って打ち込み、熱拡散では液体のPOCl₃(オキシ塩化リン)を拡散炉で気化させて表面から拡散させます。POCl₃拡散は、結晶シリコン太陽電池のn型層(エミッタ)の形成に現在も広く使われています。リンは同じn型ドーパントのヒ素より軽く、拡散も速いため、深い接合が必要なnウェルや、濃度の低いLDD、多結晶シリコンのゲート電極などに使われます。先端のFinFETでは、nMOSのソース・ドレインを高濃度にリンを含むシリコン(Si:P)のエピタキシャル成長で形成しています。
リンはドーパント以外にも使われます。リンを含むシリケートガラス(PSG)やボロンも含むBPSGは、加熱すると流動して表面を平坦にでき、ナトリウムなどの可動イオンを捕まえる(ゲッタリングする)性質もあるため、かつての層間絶縁膜の主役でした。パワー半導体用のFZシリコンでは、中性子を照射してシリコン原子(³⁰Si)をリン(³¹P)に変える中性子照射ドーピング(NTD)で、極めて均一なn型ウェハを作ります。化合物半導体では、InP(リン化インジウム)やGaP(リン化ガリウム)の構成元素です。ホスフィンは毒性が非常に強いため、ガスの供給や排気では除害装置による処理が欠かせません。