ヒ素(Arsenic、元素記号As)は原子番号33の15族(5族)元素です。シリコンではn型半導体を作るドナー(n型ドーパント)として、化合物半導体ではGaAs(ヒ化ガリウム)やInGaAs、AlGaAsなどの構成元素として使われます。
ドーパントとしてのヒ素の特徴は、原子が重く(原子量約75、リンの約2.4倍)、シリコン中での拡散が遅いことです。同じエネルギーで注入してもリンより浅い位置に止まり、熱処理でも広がりにくいため、nMOSトランジスタの浅く急峻なソース・ドレインやそのエクステンションに使われます。シリコンに溶け込める量(固溶限)が大きく、高濃度にしても電気的に働くため、低抵抗な領域を作れることも利点です。重いイオンは打ち込むだけで表面を非晶質化するため、チャネリングも起こりにくくなります。このほか、バイポーラトランジスタの埋め込み層や、低抵抗のn型シリコン基板のドーパントにも使われます。
イオン注入の原料にはAsH₃(アルシン)ガスや固体のヒ素が使われます。アルシンは極めて毒性が強く、許容濃度がppbレベルに定められているため、ガスを吸着材に吸わせて減圧で取り出す安全な容器や、漏えい検知器、除害装置で厳しく管理されます。化合物半導体の結晶成長(MOCVD)でも、アルシンや、より扱いやすい有機ヒ素原料(TBAs)が使われます。GaAsウェハの研削・研磨で出る汚泥や廃液にもヒ素が含まれるため、法令に基づく回収と処理が必要です。