プリカーサー(前駆体)とは、CVDやALDで薄膜を作るときに原料として使う化合物のことです。成膜したい元素(シリコン・ハフニウム・タングステン・コバルトなど)を含む分子を気体の状態でチャンバーに送り込み、熱やプラズマ、ほかのガスとの反応で分解させて、ウェハの表面に目的の膜を残します。
プリカーサーには、目的の元素に、気体にしやすくするための配位子が結びついた分子が使われます。代表例として、シリコン酸化膜や窒化膜にはシラン(SiH₄)や有機シリコン化合物(TEOSなど)、High-k膜のハフニウム酸化膜には有機ハフニウム化合物、タングステン膜には六フッ化タングステン(WF₆)、ALDのアルミナ膜にはトリメチルアルミニウム(TMA)が使われます。
プリカーサーに求められる性質は、適度な蒸気圧があって安定して気体で供給できること、目的の温度で分解・反応すること、炭素や塩素などの不純物を膜に残しにくいこと、保管中に分解しないこと、そして高純度で作れることです。常温で液体や固体のものも多く、加熱した容器から不活性ガスで運ぶバブリングや、液体のまま気化器に送る方式で供給されます。
ALDでは、プリカーサーが表面に1分子層だけ吸着して止まる「自己制限的」な反応が膜厚制御の要になるため、プリカーサーの選び方で成膜できる温度の範囲や、穴の奥まで均一に付く度合いが大きく変わります。微細化と3次元化で、より低温で反応し、深い溝でも均一に付く新しいプリカーサーの開発が続いています。
プリカーサーは、毒性や自然発火性を持つものもあり、シリンダーやキャニスターでの取り扱い、配管の加熱、除害装置での排ガス処理が欠かせません。主な供給元は、エア・リキードやメルク、国内の化学メーカーなどの特殊ガス・電子材料メーカーです。